コラム

テレワークによるメンタルヘルス不調と生産性

2021年08月05日(木)20時27分
テレワークストレス(イメージ)

企業はいかにしてテレワークをメンタルヘルスの向上に役立てればいいのか nensuria-iStock.

<テレワークがニューノーマルになりつつある今、企業は社員のメンタルヘルス不調に気づき、ケアする方法を採り入れる必要がある>

新型コロナウイルスが長引く中で、うつ病などメンタルヘルス不調者に対する企業の対応が注目されている。メンタルヘルスとは、「心の健康状態」という意味であり、世界保健機関(WHO)ではメンタルヘルスを「個人が自身の能力を発揮し、日常生活におけるストレスに対処でき、生産的に働くことができ、さらに自分が所属しているコミュニティに貢献できるような健康な状態である」と定義している。

厚生労働省が15歳以上の男女を対象に2020年9月に実施した調査によると、2020年の2月~3月の期間、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、「そわそわ、落ち着かなく感じた」人は31.9%、「神経過敏に感じた」人は21.2%、「気分が落ち込んで、何が起こっても気が晴れないように感じた」人は12.0%等、回答者の55.1%がメンタルヘルスに不安を感じていることが明らかになった。

また、株式会社ネオマーケティングが2020年10月15日から2020年10月19日までに20歳以上の男女1000人を対象に実施した調査結果によると、新型コロナウイルス流行後にメンタルヘルスの不調を感じている人は回答者の46.4%に達し、この割合は男性(40.0%)より女性(52.8%)の方が高いという結果が出た。そのうち体調・健康管理に不満や不安がある人は、72.0%(男性67.0%、女性77.0%)であった。

さらに、最近はテレワークが長期化することにより、「コミュニケーション不足や孤独感」、「生活リズムの乱れ」、「運動不足」などの影響でメンタルヘルスの不調を感じる人が増えたとも言われている。テレワークがコロナ対策として急速に普及してきただけに、足元では「外出できないことへの閉塞感」、「自宅の作業環境未整備によるストレス」、さらに「家族構成による仕事への集中しづらさ」などが重なっていることもメンタルヘルス不調の原因となっている。

メリットを感じる層も

ただ、徐々にテレワークに慣れてくるにつれ、この状況をメリットととらえるケースも見られ始めている。例えば、ワーク・ライフ・バランスの向上を実感する人や、ワーケーションの利用、移住による住環境の改善、地域コミュニティへの参加といった新たな生活様式を模索する人が生まれている。また従来からメンタルヘルス不調の最大要因とされている職場の人間関係によるストレスについては、出社しなくてもよくなるために軽減される、という人もいる。

こうした状況を踏まえると、テレワークはメンタルヘルス不調を増幅するだけではないようだ。従って、今後テレワークの常態化やさらなる普及が進めば、新たなメリットが生まれることも意識して、メンタルヘルス対策を再考していく必要があると考えられる。

従業員にとってのテレワークのメリットとしては、通勤ストレスの解消、通勤時間がなく有効な時間活用が可能、人に会わないことによるストレス軽減、育児や介護と仕事の両立が可能、睡眠時間の増加、感染症罹患の可能性低下などが挙げられる。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、平和と引き換えに領土放棄せず─側近

ワールド

米ウ代表団、今週会合 和平の枠組み取りまとめ=ゼレ

ビジネス

ECB、利下げ巡る議論は時期尚早=ラトビア中銀総裁

ワールド

香港大規模火災の死者83人に、鎮火は28日夜の見通
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 9
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 10
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story