コラム

韓国で今「女性徴兵論」が流行る理由

2021年06月28日(月)16時10分



このような状況の中で、来年3月の大統領選挙への出馬を表明した与党「共に民主党」の朴用鎮(パク・ヨンジン)議員は4月に出版した著書『朴用鎮の政治革命』で現行の徴兵制を募兵制に切り替えることや、男女問わず40~100日間の軍事訓練を義務付ける「男女平等服務制」等を提案して注目されている。実際に実現される可能性は低いが、与党離れした20代男性の歓心を買うには十分なネタである。

このように最近は与野党を問わず、20代や30代の若い男性を対象とする政策への発言が増えている。先日紹介した野党「国民の力」の新しい代表に選ばれた36歳の李俊錫(イ・ジュンソク)氏も、女性の労働市場参加を支援するクオータ制に異論を唱え、度を越えたクオータ制の実施に反対する若い男性の状況を改善させたいという意志を明確にしている

女性より男性の不満強い

文政権の誕生に大きく寄与したのは20代と30代であった。当時の出口調査によると、文在寅候補に投票した20代と30代の割合は47.6%と56.9%で、2位の安哲秀(アン・チョルス)候補の17.9%と18.0%を大きく上回った。しかしながら、今年4月のソウル市長選では20代男性の7割以上が野党候補に投票した結果、大敗した。

来年3月の大統領選挙を迎えている与党「共に民主党」にとって20代男性を中心とした若者の与党離れは深刻な問題であり、選挙で勝ち政権を維持するためには彼らの心を取り戻す必要がある。状況は「国民の力」を含めた野党も同じであり、女性に比べて政策から疎外されたと思う人が多い若者男性向けの雇用対策等積極的な対策の実施が要求されている。

国防部(日本の防衛省に当たる)は、最近イシューとなっている「女性徴兵制」の導入に対して、事実上「時期尚早だ」との立場を表明しており、すぐさま「女性徴兵論」が韓国で実現されることはないと考えられる。

しかしながら、大統領選挙に近づくと、「女性徴兵論」の実施以外に、兵役の義務を終えた20代男性に対する補償を含めた多様な対策が拡大・実施される可能性が高い。今後、韓国政府がジェンダー間の葛藤を解決するためにどのような対策を実施するのか今後の対策に注目したい。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

南アCPI、11月は前年比+3.5%に鈍化 来年の

ワールド

トランプ氏、国民向け演説で実績強調 支持率低迷の中

ワールド

ドイツ予算委、500億ユーロ超の防衛契約承認 過去

ビジネス

「空飛ぶタクシー」の米ジョビ―、生産能力倍増へ 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story