コラム

韓国政府、ポストコロナ対策として「国民皆雇用保険」の導入に意欲

2020年05月20日(水)14時20分

しかしながら、このような助成制度が実施されているにもかかわらず、2020年3月現在の自営業者の雇用保険制度の加入者数は24,731人で自営業者の0.2%に留まっている。なぜ、自営業者は雇用保険に加入ないのか? その理由としては、まず保険料の負担が大きいことが考えられるが、それより大きな理由として、雇用保険に加入することで所得と財産を捕捉されるのを嫌う傾向が挙げられる。所得や財産が把握されると、雇用保険以外にも公的医療保険、国民年金、労災保険のような他の公的保険にも加入する義務が生じるからだ。

多様な働き方に合わせた多様なセーフティーネットの実施を

では、自営業者以外の雇用関係によらない就業者はどうであろうか。もともと政府が打ち出した構想では、特殊雇用職従事者、ギグワーカー、フリーランスなども対象に含めるはずだった。しかし、その実現には課題が多い。何より自営業者と同様に、雇用関係によらない就業者の所得を捕捉するのは難しい。特にギグワーカーは複数の国にまたがって働いている可能性も高いので尚更だ。ギグワーカーはIT技術の発達により増え続けているものの、まだ正確な実態すら把握されていない。まず、政府がギグワーカーの実態を把握するために調査を行うと共に所得捕捉率を高めるための対策を工夫する必要がある。

自営業者や雇用関係によらない就業者を雇用保険に入れる際の保険料負担も明確にしなければならない。つまり、雇用保険の事業主負担分を加入者が全額負担するのか、事業主に責任を問うのか、税金で支援するのかが決まっていない。事業主に責任を問うと事業主の強い反発が予想される一方、税金で支援すると国の財政負担が大きくなる。

また、モラルハザードに対する対策も必要だ。自営業者や雇用関係によらない就業者は、雇用者に比べて仕事の量を調整、あるいは仕事をするかしないかを決める自由度が高く、失業給付を受給するために廃業や仕事を受注しないことを選択する可能性もある。

以上のことを考えると、「国民皆雇用保険制度」の施行はそれほど簡単ではない。今後、働き方がより一層多様化していくことを考えると、雇用保険制度の中にもそれに応じた多様性や柔軟性が求められるだろう。最近、日本でもギグワーカーやフリーランスなど雇用関係によらない就業者が増えていることを考えると、韓国政府の「国民皆雇用保険制度」の導入に関する動きは示唆するところが大きい。今後の動向が注目される。

20200526issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年5月26日号(5月19日発売)は「コロナ特効薬を探せ」特集。世界で30万人の命を奪った新型コロナウイルス。この闘いを制する治療薬とワクチン開発の最前線をルポ。 PLUS レムデジビル、アビガン、カレトラ......コロナに効く既存薬は?

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏がイラン治安部隊・指導者への攻撃検討、デ

ワールド

韓国産業相が29日に訪米、関税引き上げ巡り協議

ビジネス

独政府は構造改革推進必要、企業の破綻も甘受を=IW

ビジネス

午前の日経平均は反落、利益確定売り優勢 アドテスト
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 3
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大胆な犯行の一部始終を捉えた「衝撃映像」が話題に
  • 4
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 5
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 6
    パキスタン戦闘機「JF17」に輸出交渉が相次ぐ? 200…
  • 7
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 8
    人民解放軍を弱体化させてでも...習近平が軍幹部を立…
  • 9
    またTACOった...トランプのグリーンランド武力併合案…
  • 10
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 5
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 9
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 10
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story