コラム

『長生きできる町』から健康寿命を考える

2020年02月13日(木)16時45分

1)影響:2008年度のWHOのデータによると低体重で生まれた赤ちゃんほど糖尿病になりやすい。

2)子どもの貧困が健康に与える影響:1960年と1990年におけるそれぞれの貧富状態を比較した分析結果によると、子ども時代から大人にかけて貧困であった場合、ずっと豊かであった人と比べて死亡率が4倍も高く、また子ども時代に貧困であると、認知症発症のリスクが高い。

3)経験の積み重ねの影響:物質的な欠乏のような貧困ではなく、家族が崩壊するといった社会的排除に直面し社会との繋がりが断たれてしまうと、教育という社会的経験を受けられなかったり、いい仕事(正規雇用)に就けなかったりするので、その結果制度による支援も受けられず、社会的貧困に陥ってしまう。

4)教育以外にできることとやるべきことの影響:保護者が困ったときに相談相手がいると生活困難の影響が軽減できる可能性は高くなる。英国の事例から見ると、子どもの貧困を減らすための取り組みや歩きたくなる街づくり、コミュニティづくりなどを実施すると、最も豊かな地域と最も貧しい地域の平均寿命の差は7年から4.4年に縮小された。

重要性が高まる0次予防

WHOは、原因となる社会経済的条件、あるいは環境的条件によって規定される行動的条件を変えることで人々を健康にするようなアプローチを「0次予防」と呼び、これまでの1次予防(健康推進)、2次予防(早期発見・早期治療)、3次予防(再発・悪化予防)と共に重視している。つまり、0次予防では、人々のつながりに着目し、健康に無関心な人まで健康になってしまう楽しいまちづくり、環境づくりを目指している。

0次予防の例としては、高血圧や脳卒中などの生活習慣病を予防するために、国が率先して国民の塩分摂取量を減らそうとする取り組みが挙げられる。塩の容器の穴の数を減らしたり、消費者が気付かない程度で徐々に食品の塩分量を減らしていったりすることで塩分摂取量を減らすことができる。 

また、英国ではあらゆる業界の企業を巻き込み、食品製造における塩分の使用量を減らすことによって、国民の塩分摂取量を10%以上も減らした例がみられる。このように、国が率先して取り組むことによって、国民が置かれている環境を変え、その環境を変えることによって人の行動を変えるといういわゆるマクロレベルでの0次予防が可能であり、健康寿命の延長に繋がるだろう。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

王外相、米中対話の重要性強調 イラン情勢巡り軍事行

ワールド

トランプ氏、女子学校攻撃は「イランの仕業」 証拠は

ワールド

レバノン死者300人近くに、イスラエルは「壊滅的な

ワールド

ロシアがドローン・ミサイル攻撃、ハルキウで少なくと
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗雲...専門家「イランの反撃はこれから」「報道と実態にズレ」
  • 2
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力空母保有国へ
  • 3
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示さない
  • 4
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 5
    ダイヤモンドのような「ふくらはぎ」を鍛える最短ル…
  • 6
    【WBC】侍ジャパン、大谷翔平人気が引き起こした球場…
  • 7
    大江千里が語るコロナ後のニューヨーク、生と死がリ…
  • 8
    女性の顔にできた「ニキビ」が実は......医師が「皮…
  • 9
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 10
    「みんな一斉に手を挙げて...」中国の航空会社のフラ…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story