コラム

超円安の時代:目安が1ドル150円となる理由、住宅は持ち家がいい理由

2022年10月07日(金)10時35分

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物価上昇は秋以降3%を超えて進む可能性が十分にある KIYOSHI OTA-BLOOMBERG/GETTY IMAGES

先ほど、日本企業はコスト対策から生産拠点の多くを海外にシフトしたと述べた。しかし、移転先の中心となっていた中国の人件費は近年、高騰を続けており、大都市では日本と大差がない水準にまで上昇しているのが現実だ。

ここで為替が大幅に安くなれば、日本の人件費が相対的に安くなるため、中国など海外で生産していた製品を国内生産に戻すという選択肢が出てくる。

どの国で製品を製造するのが最もコストが安いのかを示す指標の1つに、ユニット・レーバー・コスト(ULC)と呼ばれるものがある。筆者の試算では、日本と中国のULCは既に拮抗した状態にあり、ここからさらに円安が進むと、いよいよ両国の人件費が逆転する。

そうなると、海外に移転した生産拠点の一部が日本に回帰する動きが出てくるだろう。

これまで商品のほとんどを中国などから輸入してきた100円ショップの業界でも、国内のメーカーとの交渉が始まっており、一部の商品は中国製から日本製に切り替わっている。国内生産への回帰が進めば、輸出が増加し、日本国内に落ちるお金が増えるのでマクロ経済的なメリットが出てくる。

仮に1ドル=150円程度まで円安が進むと、中国のULCは日本の約1.2倍となるが、過去の経験則から、ULCの差が1.2倍以上に拡大すると、企業は生産拠点の変更を決断しやすくなる。

生産が国内に戻れば、輸出が増加し、実需の円買いも復活するので、円安が止まる可能性が見えてくる。あくまで企業の生産拠点に着目した数字でしかないが、長期的に見た場合、1ドル=150円というのは一つの目安となりそうだ。

もっとも、この見立ては金融政策の変更によって大きく変わってくる。仮に日銀が方針を大転換させ、金利の引き上げに踏み切った場合、投資ファンドは大慌てで円買いドル売りに動くので、一気に円高に戻す可能性がある。

しかしながら、アメリカの金融当局がインフレ抑制を最優先する方針を変える可能性は低く、日銀に至っては金利引き上げの可能性はほぼゼロに近い状況と言ってよい。少なくとも年内から来年の年初にかけては、今と同じトレンドが続く可能性が高い。

状況が変わるとすれば、やはり日銀総裁が交代する来春のタイミングになるだろう。

来年4月に日銀の黒田東彦総裁が退任し、新しい総裁が就任する。市場関係者の多くは、日銀から内部昇格の可能性が高いとみており、新総裁が金利の見通しを変更した場合には、トレンドが転換する可能性も考えられる。

もっとも、円安の背景には日本の貿易収支の悪化など、日本売りという側面があることは否定できず、仮にトレンドが転換したとしても以前のような大幅な円高になるシナリオは考えにくい。短期的には円高に戻しても、長期的に見た場合、円安が継続する可能性が高いと考えるほうが自然だろう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネスなどの分野で執筆活動を行うほか、テレビやラジオで解説者やコメンテーターを務める。『お金持ちの教科書』(CCCメディアハウス)、『スタグフレーション』(祥伝社新書)、『本気で考えよう! 自分、家族、そして日本の将来』 (幻冬舎新書)など著書多数。

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