コラム

超円安の時代:目安が1ドル150円となる理由、住宅は持ち家がいい理由

2022年10月07日(金)10時35分

221011p18_EYH_01.jpg

9月に入るとドル円相場はついに140円を超えた KIM KYUNG HOON-REUTERS

海外の現地法人が販売代金として受け取った外貨は、従業員の給与や各種経費の支払いなどの形で現地に落ちる。利益についても、工場の更新などに用いられるので、多くが再投資され、日本には送金されない。

日本国内に工場があった時代は、製造業の業績が良くなると賃金が上昇し、それが国内の消費を誘発するので経済全体が上向いたが、海外生産の場合、賃上げを行っても、その賃金を受け取るのは現地の従業員なので、国内経済には寄与しないのだ。

内閣府の調査によると、海外で現地生産を行う企業の割合(2020年度)は67.8%に達しており、1990年の40.3%から大幅に上昇している。工場の海外移転が進むにつれて現地生産比率も上がり、2020年度は22.4%の製品が海外で製造された(1990年はわずか4.6%)。

ここまで海外生産比率が上昇すると、企業単体として利益が出ていても、日本のマクロ経済に対する効果は小さくなってしまう。確かに円安になれば、日本円ベースでの売上高や利益が増えるかもしれないが、これはあくまで企業決算ベースの議論であって、日本経済全体には目立った効果はもたらさない。

つまり日本経済にとっては、以前ほど円安がメリットではなくなっているという話だが、国内消費者に視点を移せば、円安は基本的にマイナス要因ばかりである。

日本はエネルギーのほとんどを輸入に頼り、食生活も輸入によって成り立っている。最近ではスマートフォンやパソコン、家電など高価格の工業製品まで輸入するようになっており、国民生活は輸入なしには成立しない。

つまり今の日本経済は、輸入価格の影響を受けやすい体質であり、実際、多くの国民が円安で生活が苦しくなったと感じている。

「良い円安」か「悪い円安」か

為替の変動についてはメリットとデメリットがあり、厳密に言えば、「良い円安」も「悪い円安」もない。

だが、基本的な経済構造の違いによって、通貨安がメリットをもたらしやすいケースとそうでないケースに分かれるのは紛れもない事実であり、今の日本は確実に後者ということになるだろう。

これまでの日本では、基本的に円安を求める声のほうが圧倒的に大きく、円安懸念の大合唱になるというのは大きな変化である。

いくらの為替レートが適正なのか判断するのは難しいが、少なくとも円安がこれ以上進んだ場合、輸入物価上昇による国民生活への悪影響が大きくなるのはほぼ間違いない。

では、今回の円安はどこまで進むのだろうか。

先ほど説明したように、円安の基本的要因となっているのは日米の金融政策の違いなので、この状態が維持されることを前提に議論を進めていく。為替は市場で決まるものであり、いつの時点でいくらになるのか正確に予想するのは原理的に不可能である。また、どの要因に着目するのかによっても結果は違ってくる。

ここでは貿易による実需の取引を軸に検討してみたい。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

-日産、11日の取締役会で内田社長の退任案を協議=

ビジネス

デフレ判断指標プラス「明るい兆し」、金融政策日銀に

ビジネス

FRB、夏まで忍耐必要も 米経済に不透明感=アトラ

ワールド

トルコ、ウクライナで平和維持活動なら貢献可能=国防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story