コラム

「就活ばかり」日本の若者が世界に取り残される

2019年10月09日(水)17時00分

大人の怠慢を糾弾するスウェーデンの少女トゥーンベリ PHILIPPE WOJAZER-REUTERS

<欧米のミレニアル世代がグローバルな課題に声を上げるなかで日本は「ガラパゴス」>

この頃の世界を見ていると、何か新しいものがやって来るという予感がする。

アメリカは、トランプ大統領が来年の大統領選のライバルになり得るジョー・バイデン前副大統領の不正を調べるようウクライナのゼレンスキー大統領に圧力をかけた、かけないで持ち切りだ。弾劾が成立することはあるまいが、あおりでバイデンが退場すれば、民主党ではエリザベス・ウォーレン上院議員が台頭する。彼女は金融界をはじめとする大企業のエゴを強く批判し、公平な分配を標榜する人物だ。困窮白人層をポピュリズムであおりつつ、その実、法人税の大幅引き下げで大企業の利益を図ってきたトランプは守勢に追い込まれるだろう。

ウォーレン自身は70歳だが、なれ合いや腐敗を許さない点で、1980年代から2000年代初頭までに生まれたミレニアル世代の旗手ともいえる。ビルとヒラリーのクリントン夫妻が代表するベビーブーマー世代は、日本の団塊世代と同じく学生時代は反ベトナム戦争、ロック音楽、ヒッピーの反権力勢力だった。ところが今では利権社会にどっぷりつかっている。

これに対しミレニアル世代は、アメリカが国外のことに過度に介入するのではなく、同盟国や国際機関と共に世界を良くしていくことをより好む。「国家」「自由の価値観」などのイデオロギーあるいは出世志向に取りつかれたこれまでの世代と違って、環境や自分たちの生活ぶり、人間としての生活を改善することに(それもグローバルに)、まず関心を示すのだ。

「トランプ後」を見据えよ

同様の変化は世界のいくつかの国でも見られる。ロシアでも、アメリカのミレニアル世代と同じ若い世代が新しい文化、政治運動を生んでいる。彼らは政府の腐敗を強く非難し、経済と社会の一新を求める。20年にわたって権力を独占するプーチン大統領と与党「統一ロシア」は失笑を買うだけの古くさい存在だ。若者は本を読まず、直感的かつ衝動的で、政治は未経験でもネットでフォロワーの多いブロガーやラッパーの周りに結集する。

ウクライナでも、テレビ界出身のゼレンスキーが腐敗政治といつまでも続く戦争に飽き飽きした国民の支持で、73%もの票を獲得して大統領になった。異常気象に危機感を募らせたスウェーデンの少女グレタ・トゥーンベリは国連で、「大人たちの怠慢を私たちは許さない」と演説。彼女の声にドイツなどの中高生が賛同し、金曜午後には学校を早退して環境保全を訴える運動を展開した。

毎週デモを続ける香港の青年たちも、「国家」を嫌い、自分たちの権利を大事にする点ではグローバルな流れに沿っている。ロシアの若者と同じく、彼らもSNSを多用して自然発生的、ゲリラ的な集会を繰り返す。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米軍麻薬作戦、容疑者殺害に支持29%・反対51% 

ワールド

ロシアが無人機とミサイルでキーウ攻撃、8人死亡 エ

ビジネス

英財務相、26日に所得税率引き上げ示さず 財政見通

ビジネス

ユーロ圏、第3四半期GDP改定は速報と変わらず 9
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 5
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story