コラム

国家元首かアイドルか......人権なき「天皇制」の未来は

2019年03月28日(木)18時00分

次の時代を担う皇太子ご夫妻(2月) IMPERIAL HOUSEHOLD AGENCY OF JAPANーHANDOUTーREUTERS

<「万世一系」と敗戦処理により酷で半端な存在に? 天皇退位を前に考えるタブーなき改革案>

今上天皇の生前退位が4月末に迫るなか、この機会に天皇制について考えてみたい。

世界には多種多様な国家元首がいる。アメリカやフランスで直接選挙によって選ばれる大統領は、文字どおりの最高権力者だ。ドイツやインドなどで連邦や州の議会の代表が選ぶ大統領は役割が象徴に限定されている。

その中で日本の天皇は憲法で「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」とされるも、明治憲法で明示されていた「国の元首」という位置付けはされていない。その点で、政治上の実権を持たないイギリスや北欧、ベネルクス諸国の国王に類似した存在となっている。

ただし日本の皇室は、1974年まで3000年続いたと称するエチオピア皇室と並ぶ「万世一系」。中国や欧州諸国のような王朝交代もなく続いていることになっていて、世界でも特別の権威を持つ。日本のアイデンティティーを世界に示す、かけがえのない存在だ。

西欧諸国の王家は国民の敬愛の対象となっているとされるが、実際にはプライバシーを踏みにじられ、ゴシップを書き立てられるがままだ。キリスト教会と同じく過去の遺物、税を浪費する無用な存在だとする国民も増えている。

変革をタブー視するな

実際、国家や国民団結の象徴だけなら、アメリカのように国旗と国歌だけで十分なのかもしれない。アメリカで野球の試合を始めるときには「トランプ大統領万歳」ではなく、星条旗を掲げ、国歌を歌って意気を上げている。

日本の天皇制も1500年の歴史を引きずるだけに、「文明の断絶」とも言える産業革命と大衆社会化を経て、現代社会とのねじれは増えている。旧世代の一部にとっては、天皇は戦前の国家主義の扇の要である一方、若い世代にとってはアイドル的な存在だ。このような状況下、天皇が「国民統合の象徴」であるためには、今上天皇・皇后がされてきたように、常に気配りと努力を強いられる。

さらに厄介なのは、第二次大戦の敗戦を受けた新憲法では、天皇の地位は中途半端で、普通の感覚で言えば天皇に完全な人権を認めていないことだ。

日本での占領行政を円滑に行うために天皇の権威を必要としたアメリカのマッカーサー元帥と、支配・利権構造(「国体」)を共産主義から守るために天皇を必要とした日本エリート層の利害が一致。戦争責任は不問のまま天皇制は残され、極東国際軍事裁判でけりがつけられた。

その結果、新憲法で与えられた地位は中途半端なものとなった。天皇は必要だが、実際の権限は与えない。総理大臣の任命や法律の公布など「国事」に携わりながら、全て内閣の助言と承認を要するものとされ、責任は内閣が負う。「国政に関する権能を有しない」ため、政治的な行為・発言は厳に控えるべきものとされる。酷な立場だ。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

スウェーデン、バルト海の通信ケーブル破壊の疑いで捜

ワールド

トランプ減税抜きの予算決議案、米上院が未明に可決

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、2月50.2で変わらず 需要低

ビジネス

英企業、人件費増にらみ雇用削減加速 輸出受注1年ぶ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 5
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 6
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story