コラム

イエメン内戦に新展開、分裂・内戦を繰り返してきた歴史的背景を読む

2019年09月10日(火)18時20分

当時からすればアデンのインフラは整備されただろうが、当時35万だった人口は3倍近くになっており、内戦で都市機能がマヒすれば、人口増加の分だけ、水不足も食料不足も深刻になるだろう。

94年の内戦は2カ月で終結したが、今回のイエメン内戦は2015年3月に始まってすでに4年半となっている。民間人の死者は1万人とされるが、10万人という推計もある。さらに国連は昨年11月、イエメンで1400万人が飢餓の危険に瀕していると警告した。内戦での荒廃は、アデンの人々にも重くのしかかっているだろう。

1960年代にも90年代にも、イエメンでは南北の内戦が起こった

今回のイエメン内戦は、2011年の民主化運動「アラブの春」がイエメンにも波及し、民衆の反政府デモで軍出身の独裁者サレハ大統領が辞任した後に始まった。サレハ大統領の後に、軍出身のハディ副大統領が、民主化と国民和解を担う暫定大統領に選ばれた。

しかし、民主化も国民和解も両方ともプロセスは進まないまま、北部を拠点とするシーア派の一派であるザイド派の武装組織「フーシ」が蜂起して、北のサヌアを制圧した。ハディ暫定大統領は南のアデンに移って対抗し、内戦となったのである。

ハディ暫定政権をサウジアラビアが主導するアラブ有志連合(スンニ派)が支援し、フーシを同じシーア派のイランが支援したことから、サウジとイランの代理戦争とも言われている。南部勢力は有志連合に参加するアラブ首長国連邦(UAE)の支援を受け、ハディ暫定政権と協力して、フーシとの戦いに協力してきたが、内戦5年目にして、分離独立を求めて蜂起したのが現在の状況だ。

南部勢力の蜂起で、エメンは三分裂の様相となった。もともと政治的には分裂を抱えた国である。

19世紀、北イエメンはオスマントルコに支配され、南イエメンは英国の保護領だった。1918年に北イエメンのザイド派がイエメン王国として独立したが、62年に軍事クーデターで倒れた。8年間の北イエメン内戦の結果、70年にスンニ派主導の軍事政権ができた。

一方の南イエメンは、反英闘争を続けた社会主義勢力が1967年にマルクス・レーニン主義を掲げるイエメン人民民主共和国として独立した。ソ連の崩壊後、90年に南北イエメンは統一し、北のサレハ大統領が統一イエメンの大統領になり、南のイエメン社会党のビード書記長が副大統領になった。しかし、94年5月にビード副大統領が南イエメンの再独立を宣言し、南北イエメン内戦に。この内戦では上述のように、北によって南は抑え込まれた。

プロフィール

川上泰徳

中東ジャーナリスト。フリーランスとして中東を拠点に活動。1956年生まれ。元朝日新聞記者。大阪外国語大学アラビア語科卒。特派員としてカイロ、エルサレム、バグダッドに駐在。中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『中東の現場を歩く』(合同出版)、『イラク零年』(朝日新聞)、『イスラムを生きる人びと』(岩波書店)、共著『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社新書)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない』(集英社新書)。最新刊は『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』
ツイッターは @kawakami_yasu

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:社会の「自由化」進むイラン、水面下で反体制派

ワールド

アングル:ルーブルの盗品を追え、「ダイヤモンドの街

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円で横ばい 米指標再開とFR

ビジネス

米、対スイス関税15%に引き下げ 2000億ドルの
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 5
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 6
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 9
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 10
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story