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パレスチナ問題の特殊性 中東全体の危機へと広がり得る理由
エルサレム問題に反対キャンペーンを張らないアラブ諸国
パレスチナ危機によって、アラブ諸国の政権や統治の正統性が問題化する。なぜなら、イスラエルと対抗して「パレスチナ解放」を実現することは、アラブ諸国の政府や指導者が担うべき「アラブの大義」とみなされていたからだ。しかし、エジプトが単独和平を結んだ後、アラブ諸国は戦うことなく、80年代以降は、パレスチナ人だけが単独でイスラエルと対峙し、多くの犠牲者を出し、アラブ諸国は動かないという構図になっている。
例えば、2009年のイスラエルによるガザ攻撃の時には、ガザでイスラエルの空爆や侵攻で毎日犠牲者が増えているのに、エジプトは南側の国境を閉じたままだった。当時のムバラク政権は、イスラエルに加担しているという批判を受けた。それはエジプトの「アラブの春」で噴き出した政権批判の1つの要因でもあった。
それから10年たって噴き出した今回のパレスチナ危機の発端は、パレスチナ人だけでなく、イスラム教やキリスト教の聖地が関わるエルサレム問題であるが、アラブ諸国が政治・外交的に強力なキャンペーンを張ったわけではない。
トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都に認定した直後の17年12月、トルコの呼びかけにより、イスタンブールで「イスラム協力機構(OIC)」の緊急首脳会議が開かれた。しかし、イランやパレスチナ、ヨルダンなどからは首脳が出席したものの、イスラム世界の多数派であるスンニ派の盟主であるサウジや、アラブの主要国であるエジプトの首脳は参加せず、宗教省の幹部を送っただけだった。
サウジの対応について、ロンドン在住の著名なジャーナリスト、アブデルバリ・アトワン氏は自ら編集長をつとめるニュースサイト「ラーイ・ルヨウム(今日の意見)」で、「アラブ世界の指導者たちがイスタンブールの首脳会議に参加しなかったことは恥ずべきこと、不名誉なことだ」と批判した。
結果的に、中東でエルサレム問題が注目された18年は、パレスチナ人だけが血を流し、アラブ諸国の指導者たちは沈黙する構図となった。沈黙するだけでなく、19年2月には、パレスチナ人不在のワルシャワ中東会議で、アラブ諸国とイスラエルとの関係正常化に向かう動きが表面化した。
パレスチナ問題の「恥、不名誉」が過激派浸透の土壌をつくる
パレスチナ問題に対して、アラブ世界の指導者たちは冷ややかであるが、アラブの民衆も同じとは言えない。同じくアラビア語を母語とするパレスチナ人の苦難は、アラブメディアやインターネットを通してアラビア語で流れてくる。
2003年6月にサウジアラビアに取材で入った時に、現地の大学でメディア論を専門とする教授が、「いま、アラブ人のテレビニュースは、パレスチナのインティファーダではイスラエル軍の攻撃による、イラク戦争では米軍の攻撃による同胞の血と叫びであふれている」と語ったことを思い出す。
その年の5月には、サウジの首都リヤドで外国人居住地3カ所を狙った大規模な連続車爆弾テロが起こっていた。その4日後にはモロッコのカサブランカでユダヤセンターなどを狙った4件の連続爆弾テロがあった。ともに国際的イスラム過激派組織「アルカイダ」とのつながりが指摘された事件だ。サウジ人の教授には、テロの背景について聞いていた。
教授は、「私はテロには反対だが、パレスチナ人やイラク人などアラブ人が日々やられているのを見せられているアラブの民衆は、過激派が欧米人やユダヤ人を攻撃することを同胞の受難に対する報復と見るだろう」と語った。国は違っても、アラビア語で悲嘆の声をあげるパレスチナ人やイラク人を同胞と捉え、怒りを募らせているということである。
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