コラム

シリアで拘束されたスペイン人元人質の証言──安田純平さん事件のヒントとして

2018年09月18日(火)16時30分

私は、2015年1月にジャーナリストの後藤健二さんが「イスラム国」(IS)に拘束され殺害された事件をきっかけにジャーナリスト有志がつくった「危険地報道を考えるジャーナリストの会」に参加している。紛争地など危険地でのジャーナリストの安全確保について情報を集めることも目的の1つであり、パンプリエガの証言には安全を巡る重要な問題が含まれていた。

パンプリエガが拘束された時の経緯をかなり詳細に語っている。それによると、パンプリエガはウサーマを使うのは2回目だったという。パンプリエガは一度使ったことのあるウサーマとフェイスブックで連絡をとり、2人のフリーランス仲間を誘ってシリア入りすることになった。

パンプリエガによると、アレッポに入った時、ウサーマは車の中で「みんなの写真を撮ってもいいか」と聞いたという。パンプリエガは「シリアを出るまでは写真をフェイスブックにあげない」という条件で写真を撮らせた。条件をつけたのは「武装グループに知られたら拘束されかねない」という危険を回避するためである。

ウサーマは携帯電話で運転手の隣の助手席に座った自分を入れて、後部座席に座った3人のスペイン人ジャーナリストの写真を撮った。ところが、ウサーマはすぐに写真を自分のフェイスブックにあげた。パンプリエガは「ウサーマは外国人ジャーナリストと一緒にいるのを自慢したかったのだろう」と考え、フェイスブックから削除するように求め、ウサーマが削除を約束したので、それ以上、深くは考えないようにしたという。しかし、ウサーマは画像を削除しなかった。

スペイン人ジャーナリストが拘束されたのはその翌日だった。ユネスコの世界遺産にも指定されているアレッポの旧市街を回っている時だった。パンプリエガは「ドライバーは予定していない道に入って、窓から顔を出した。その時、別の車が前方に割り込んできた。ウサーマも、彼らについている他のシリア人も抵抗しようとはしなかった。すぐに武装した男たちに囲まれた」と、その時の様子を語っている。

その時、パンプリエガはウサーマがあげたフェイスブックの写真が脳裏をよぎった。「あれはウサーマが私たちを(過激派に)売り飛ばすために私たちの顔を掲げたものだったのか」と考えたという。

スペイン人3人が行方不明になり、ヌスラ戦線に拘束されたというニュースが流れた時、ニュースには車の中にいる3人のジャーナリストの写真が使われていた。当時、なぜ、このように拉致される直前の写真があるのだろうと思ったが、その写真はウサーマのフェイスブックにあがっていた写真なのである。

プロフィール

川上泰徳

中東ジャーナリスト。フリーランスとして中東を拠点に活動。1956年生まれ。元朝日新聞記者。大阪外国語大学アラビア語科卒。特派員としてカイロ、エルサレム、バグダッドに駐在。中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『中東の現場を歩く』(合同出版)、『イラク零年』(朝日新聞)、『イスラムを生きる人びと』(岩波書店)、共著『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社新書)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない』(集英社新書)。最新刊は『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』
ツイッターは @kawakami_yasu

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

医薬品メーカー、米国で350品目値上げ トランプ氏

ビジネス

中国、人民元バスケットのウエート調整 円に代わりウ

ワールド

台湾は31日も警戒態勢維持、中国大規模演習終了を発

ビジネス

中国、26年投資計画発表 420億ドル規模の「二大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story