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シリア「虐殺された町」の市民ジャーナリストたち
RBSSは暴力に対する市民の闘いの最前線にいる
ドキュメンタリーはアジズらRBSSのメンバーの姿を追いながら、人類が初めて経験するインターネットによって拡散する暴力の恐怖を示している。RBSSがISの暴力を告発する手段もまたインターネットである。
映画の中で、アジズがドイツの警察に呼び出されて、ISからフェイスブックやツイッターで殺害の脅迫を受けていることを説明すると、「危険な状況です。あなたを保護したい」と持ち掛けられる。それに対してアジズは「私にとって単に警察や保護の問題ではない。仲間は死に、危険な市内に残る者もいるのに、私がドイツで保護なんて」と保護を断る。
アジズはアパートに戻り、それまでにISに殺害された仲間たちの写真を見ながら、つぶやく。「なぜ、(死んだのは)私ではなく、彼らなのか。RBSSは第二の家族だ。忘れられた街――。ラッカの男たちがここまでやれると誰が思っただろう。だがやった。我々の言葉は間違いなく、彼らの武器よりも強い」
その後、アジズはたばこに火をつけて吸うが、たばこを挟んだ指が小刻みに震えている。
RBSSはシリア内戦で注目を集める市民ジャーナリズムを象徴する存在である。
戦争報道はそれまで欧米のメディアやジャーナリストが戦地に入ることで担われてきた。しかし、シリア内戦の反体制地域は、ISなど過激派組織によってジャーナリストが拉致され、殺害される危険区域になり、外国メディアが入ることが困難になった。
その代わりに歴史上初めて、紛争地の市民がSNSを使って戦争報道を担うメディア状況が生まれている。RBSSは暴力に対する、市民の闘いの最前線にいる。
「イスラム国」陥落後も終わらぬ市民の苦境
映画は2017年1月に米国で初上映された。2015年11月のCPJでの授賞式前から2016年にかけて、ISが最も勢力を持っていた時期のRBSSの活動を扱っている。しかし、この映画が日本で公開されているいま、ラッカはもうISの都ではない。
ラッカは2017年10月に米軍・有志連合の空爆の援護を受けたクルド人主体のシリア民主軍(SDF)の掃討作戦で陥落した。ISは2014年にイラクからシリアにまたがる地域の支配を宣言したが、2017年6月のイラク側の都モスルの陥落に続くもので、ISの支配地域は現在ほとんど消滅している。
しかし、これでラッカは平静に戻り、RBSSの国外メンバーは帰国できるかといえば、そうではない。
米軍・有志連合によるラッカ掃討作戦は2017年1月に就任したトランプ政権下で本格化した。米軍・有志連合の空爆によって、ラッカでの市民の死者が飛躍的に増えた。
2018年1月、RBSSはホームページで「2017年のラッカ州での民間人死者」の集計を発表した。1年間の民間人の死者の総数は3259人。そのうち2064人(63%)が米軍・有志連合の空爆による死者だった。
ISの攻撃で死んだ民間人は548人(17%) ▽シリア民主軍(SDF)426人(13%) ▽ロシア軍149人(5%)――と、ISを排除した米軍・有志連合の空爆による民間人の死者が突出している。
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