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独立直後のイスラエルが行ったパレスチナ人の「民族浄化」を告発する
これは和平実現を絶望的にする本なのか?
本書では最後にオスロ合意について、イスラエルが1948年に行った「民族浄化」の責任や、その結果生じた難民たちの帰還については全く排除されていることが、解決を妨げているという立場をとっている。
つまり、「土地と和平の交換」の方程式だけでは和平は実現せず、1948年にイスラエルによって実施された「民族浄化」作戦によって引き起こされたパレスチナ人の「ナクバ(大惨事)」に戻って、それによって生じた難民たちの帰還を実現しなければ和平は実現しないということである。
本書はパレスチナ問題の困難さの本質を見せてくれる。その意味では、パレスチナ問題を理解するために決定的に重要な書物である。ただし、イスラエル政府やイスラエル国民の多くはパレスチナ難民の帰還権を認めればイスラエル国家は破綻するとして認めない姿勢をとる。
70年前に起きたイスラエルとパレスチナの間の傷をえぐりだすパぺの著書は、和平実現を絶望的にするという見方があるかもしれない。
しかし、パぺは「和平は私たちの手の届くところにある」とし、「大多数のパレスチナ人は、数十年にわたるイスラエルの野蛮な占領に人間性が奪われるのを拒み、何年もの追放や弾圧にもかかわらず和解を望んでいるのだ」と書く。パぺは研究と並行してパレスチナ人の歴史家らとの対話や共同研究をしており、その試みからくる確信なのだろう。
私がシャティーラ難民キャンプで<ナクバ世代=難民第1世代>の老人たちの話を聞いて驚くのは、彼らが悲惨な経験を語りながらも、一方で戦争以前にユダヤ人を隣人として暮らしていた記憶を持ち、「ユダヤ人とは共存できる」と口にすることである。
パレスチナ人にとっても1948年のユダヤ人部隊による暴力は予想もしないことで、それまでのユダヤ人とは結びつかないものであり、戦争という特殊な状況での出来事と限定的に記憶されているのだろう。鋭く対立し袋小路となっているイスラエルとパレスチナの現状から考えれば、和平は描きにくい。しかし、共存していた昔に戻るという考え方に立てば、和平は現実のものとなる。
過去に戻ることはできなくても、過去に戻って共通の基盤を探ることが、未来の和解を支える。それを阻んでいるのは、第1次中東戦争で行われたパレスチナ人の排除に対して、イスラエ側が過去と向き合うことを拒否していることだ。その意味では、パぺの著作は、和平は不可能ではないことを示す「希望の書」である。
パぺは最初の「謝辞」の最後にこう書いている。
本書は......誰よりも1948年の民族浄化で犠牲となったパレスチナ人のために書いたものである。......私はナクバについて知ってからずっと、彼らの苦しみや喪失、希望をともに感じてきた。彼らが帰還してはじめて、この一連の大惨事がみなの切望する終焉をようやく迎えたと感じられるだろうし、われわれみながパレスチナで平和に、そして穏やかに暮らすことができるのだろう。
『パレスチナの民族浄化――イスラエル建国の暴力』
イラン・パぺ 著
田浪亜央江・早尾貴紀 訳
法政大学出版局
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