コラム

「シーア派連合」と連携するロシア、「裸の大国」と化したアメリカ

2015年10月28日(水)18時14分

連携して「大国」の米国に対抗するという構図

 ここでロシアの中東での「政治的軍事的なプレーヤーとしての復活」の意味合いが垣間見える。冷戦時代の米ソは、共に大国として影響力を競い、自分の影響下にある国や地域で都合のよい政権をつくり、またはつぶした。しかし、今回はそのような意味での大国としての復権ではない。プーチン大統領がとったのは、中東の国々とパートナーとして連携する立場である。

 ロシアの立場を考える時、アサド大統領が10月初めにイランのテレビ局のインタビューの中で、「ロシアとシリア、イラン、イラクでつくられた連合が成功しなければ、地域は破壊されてしまう」と語ったことが思い浮かぶ。それは、プーチン大統領が国連総会演説で言及したアサド政権と協力する連合であり、同時に米国がイラク戦争によって始めた「民主主義革命の輸出」から地域を守るための連合ということになるだろう。

 イラク戦争後に生まれたシリア、イラン、イラクにレバノンのヒズボラを加えた「シーア派ベルト」に、ロシアが乗っかった形である。シーア派連合の中心はイランであり、イラク戦争後に政権をとったイラクのシーア派の後ろ盾となり、さらにはシリア内戦で劣勢に立たされたアサド政権を、レバノンのシーア派組織ヒズボラと共に支援しているのである。

 ロシアが連合に参画する前段として、今年3月以降、アサド政権は、反体制派勢力、特に武装イスラム勢力の攻勢を受けて、守勢に立たされていた。政権軍が抑えていた北部のイドリブは、3月にイスラム系反体制派組織連合のファタフ軍に奪還された。ファタフ軍はアハラール・シャム(シリア自由人イスラム運動)やアルカイダ系のヌスラ戦線など、イスラム過激派を主力とする。

 アサド大統領は今年7月下旬の演説の中で、「我々はある地域を放棄して、重要地域に軍を集中的に投入する必要がある」と国防戦略の転換を発表した。シリア軍が人員不足のために、すべての戦線を維持できなくなっていた。

 プーチン大統領がアサド政権を支持する理由として、シリア西部の地中海岸に面したタルトゥースにある海軍基地の維持がよく挙げられる。アサド政権の窮地を見て本腰を入れた支援に乗り出したことになるが、プーチン大統領は自分がシリアの庇護者のような立場をとるのではなく、アサド政権を前面に押し立てて、イランが率いるシーア派連合と連携、協力し、政権軍を援護する立場をとっている。

 ロシア軍の空爆は、これまで政権軍が行ってきたことと同じ手法と同じ標的であり、それを強化しただけで、何か新しい戦略を付け加えたわけではない。ロシアの思惑を推測するならば、シーア派連合にパートナーとして協力するという形をとることで旧ソ連の「大国」イメージを拭い去り、そうすることで、ロシアとシーア派連合が共に「大国」の米国に対抗する構図をつくるということであろう。

ロシアに潰された「米・イラン新時代」

 ロシアの参戦で大きく目論見を狂わされたのは米国である。米国のケリー国務長官は今年3月に、シリア内戦の政治的な解決について「移行期間についてアサド大統領と話す必要がある」と語った。春にはアサド政権の危機という見方が広がっており、イスラム過激派の勢力拡大による混乱を避けるためにも、政治的な解決の道筋を開くことが課題だった。

プロフィール

川上泰徳

中東ジャーナリスト。フリーランスとして中東を拠点に活動。1956年生まれ。元朝日新聞記者。大阪外国語大学アラビア語科卒。特派員としてカイロ、エルサレム、バグダッドに駐在。中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『中東の現場を歩く』(合同出版)、『イラク零年』(朝日新聞)、『イスラムを生きる人びと』(岩波書店)、共著『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社新書)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない』(集英社新書)。最新刊は『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』
ツイッターは @kawakami_yasu

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、グリーンランド領有を改めて要求 NAT

ワールド

イラン、サウジなどに米の攻撃制止要請か 米軍基地攻

ワールド

トランプ氏のグリーンランド獲得計画、米国民の支持1

ワールド

通常国会の早期に解散、高市首相が自民・維新に伝達 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広がる波紋、その「衝撃の価格」とは?
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救った...実際の写真を公開、「親の直感を信じて」
  • 4
    飛行機内で「マナー最悪」の乗客を撮影...SNS投稿が…
  • 5
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 8
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 9
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 10
    「普通じゃない...」「凶器だ」飛行機の荷物棚から「…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 5
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 6
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 7
    次々に船に降り立つ兵士たち...米南方軍が「影の船団…
  • 8
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 9
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 10
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story