コラム

日本人の知らないレンガ建築の底知れない魅力

2024年09月21日(土)19時30分

街の中心部で存在感を示している教会をはじめ、この町のあちこちにはローマ時代のレンガで作られた建物がいくつかある。近くにある別の教会はハイブリッド型だ。

ローマ時代のレンガで建てられたが、後に大規模な再建が施された。そのため、ローマ時代のレンガを(ほとんどで)使っている塔の部分と比べて、塔を取り囲む建物はかなりタイプが異なるずっと後の時代のレンガでできている。それに何より強烈なのは、後の時代のレンガ造りで塔にもう1階分が後から増築されたことだ。

ローマ時代のレンガが略奪された場所では、「逆」の現象が時々起こった。つまり、ローマ時代の壁の一部が欠けた箇所は、現代のレンガで補修されたのだ。街中で聞かれるジョークにこんなものがある。「私はローマ時代の壁よりも年がいっているよ」

レンガ造りのもう1つの偉大な時代は、ビクトリア朝時代で、当時コルチェスター(およびイギリスの他の都市部)は建築ブームに沸いた。 そのため、街の「頂上」を占める巨大な給水塔など、その時代の壮大なレンガ造り建築がいくつか残っている。

newsweekjp_20240921102531.jpg

ビクトリア朝時代の壮大な給水塔 COLIN JOYCE

ニュータウン地区を含むレンガ造りの住宅街全体も、この時代に建設された。150年近くたっているのに「ニュー」タウンなんて皮肉だと思われている。住宅、パブ、その他の建物は全て計画に基づき、同時期に建てられて統一感があるので、歩き回るのが楽しい地区だ。とはいえ、ここ数十年で建てられている没個性住宅みたいに「退屈」ではない。

通りに並ぶバラバラなタイプの家

僕の家がある通りは、ニュータウンと同じ時期に建てられたのにもかかわらず、ニュータウンとはずいぶん違っている。種類が多様だからだ。

僕の通りの土地は、分割して競売にかけられた。そこで、ある開発業者が3~4軒分の広さの土地を購入し、好きなように住宅を建てた。また別の業者が隣の分譲地を購入し、異なるタイプの家を3軒建てた。

そのため例えば、あの時代に標準的だった2階建てで各階2部屋ずつの小さなテラスハウスのような家が5軒並んでいる。その隣には、もっと裕福な人々が住むために建てられた、より大きな3つの「タウンハウス」が建っていたりする。

僕の家は不調和なことに、その2つのタイプの中間的な存在だ。大邸宅ほどの広さはないが、テラスハウスよりはずっと快適な「1軒限定」もの。明らかに、かつて家族で暮らしていた誰かのための特別仕様で建てられている(家に付いていた名前から、僕はその一家の姓を推測することもできる)。だから「しゃれた」ポーチのような、個性的な作りも随所に見られる。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story