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反ユダヤと無縁だったイギリスに広がる反ユダヤが危険な理由
パレスチナ支持と共に反ユダヤの感情が広がる(ロンドンでのパレスチナ支持デモ) KRISZTIAN ELEKーSOPA IMAGESーREUTERS
<イスラエルによるガザ攻撃を受けてイギリスでも反ユダヤ感情が蔓延している。反ユダヤ主義が表面化することなどなかった現代のイギリスで、なぜ今こんなことになっているのか>
ロンドンで最近、警察官がある男性に対して、彼が「見るからに」ユダヤ人で、「敵意を招く」可能性があるから親パレスチナデモを迂回して行くように、と注意する映像が公開され物議を醸した。法を守っている市民が首都を自由に歩くこともできないのかと世間は憤慨したが、警察官の忠告は男性の安全を考えてのことだ、という理解も一部にはあった。
5月にイギリスでは、地方自治体の選挙で、地域や国の問題ではなく国際問題を訴える候補者が相次ぐという奇妙な現象が起こった。ムスリム人口が多い地域では、パレスチナ自治区ガザでの停戦を求める議員が数人だが当選した。イスラム組織ハマスのイスラエル攻撃とイスラエル軍による反撃以来、パレスチナの旗を掲げた窓をイギリス各地で見るようになった。だがイスラエルの旗を見かけることはない。
大学のキャンパスやムスリムのコミュニティー、そして左派の間では、反ユダヤ主義とほとんど区別がつかないような反イスラエルの空気がある。反ユダヤ的な嫌がらせも急増している(ある報告によれば昨年は前年比で589%増加したという)。このせいで僕は個人的ジレンマに襲われた。ユダヤ系アメリカ人の友人が、彼の娘がもうすぐロンドンに留学するんだと話してくれたとき、単にお祝いを述べるべきか、厄介ごとに注意したほうがいいよと言うべきか悩んだからだ。
ある意味、今の反ユダヤ主義の増加は驚くべきことだ。現代のイギリスで反ユダヤ主義は、広く問題化したことなど一度もなく、あくまで一部の過激派のものだったからだ。例えば、平均的なイギリス人はユダヤ人特有の姓を見分けることができない。一時期、サッチャー政権の閣僚の約4分の1がユダヤ人だったが、ほとんど誰も気付いていなかった。
イギリスで唯一の反ユダヤ主義の政治運動は、1930年代のオズワルド・モズレーのブラックシャツ隊だった......だがあまりに不発に終わったから、彼のことなど誰も聞いたことがないのも無理はない。
裕福で恵まれたユダヤ人には人種差別は当てはまらない?
しかしいくつかの要因が合わさり、今や反ユダヤ主義が表面化している。第1の要因は、イギリスの左派にとってパレスチナが重要な「象徴」であることだ。労働党が長く下野していた1980年代、南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離政策)との闘いはイギリスの左派に活気を与えた。パレスチナ問題はそれに代わり、人々の怒りを呼び、刺激し、動かす「重要で崇高な大義」となってきた。
イスラエルの政策を批判するのは構わないが、しかしそこには驚くほどねじれた論理がある。抑圧者はイスラエルで、イスラエルはユダヤ国家、従ってユダヤ人は敵である、というものだ。時には、イスラエルに批判的な言動をするユダヤ人を例にとり、反ユダヤ主義が人種差別とは別物である証拠だ、だって「ほら、僕たちはこのユダヤ人とはちゃんと友達だもの」というわけだ。
しかし、これは人種差別の2つの大罪を犯している。仲間をその人の個性ではなくまず人種によってとらえていること。そして、ユダヤ人というマイノリティー集団の1人ではあるものの、他のユダヤ人とは違う「良いユダヤ人」だから「許してあげる」という発想だ。
皮肉なことに、人種差別を何より軽蔑すると言う人々の多くが、人種差別はユダヤ人には当てはまらないと考えているようだ。イギリスのユダヤ人は裕福な人が多く、ほとんどが白人なので、抑圧され恵まれないマイノリティーだとは見なされない。
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