コラム

反ユダヤと無縁だったイギリスに広がる反ユダヤが危険な理由

2024年05月29日(水)12時24分

ジェレミー・コービンが労働党党首だったとき、(ユダヤ人の労働党活動家が嫌がらせを受けるなどして)労働党が反ユダヤ主義で非難された際によく使われた、循環論法がある――私たちはあらゆる人種差別に反対している、だから、具体的な人種差別事例で私たちを非難するなど言語道断だ、というものだ。結局のところ、この手の批判は、現状を覆そうとする進歩的活動の信用失墜を狙った「既得権益層」や右派メディアの作戦だろう、と一蹴された。

2015~19年に労働党党首を務めたジェレミー・コービンが反ユダヤ主義に寛大だったことは、熱心な支持者たちに「反ユダヤ主義も許される」というお墨付きを与えた。それは、「あらゆる抑圧された人々のために立ち上がるリーダー!」とうたうコービン流急進左派ブランドの本質を成すものだった。

ただし、キア・スターマーが党首を務める現在の労働党が、コービンを除名したり元ロンドン市長ケン・リビングストンを追放したりするなど、党内の反ユダヤ主義を厳しく取り締まっていることは評価すべきだ。

それでも、社会における問題を一掃するには至っていない。今年、型破りな左派政治家のジョージ・ギャロウェイ(イスラム教改宗者で、挑発的で攻撃的な反イスラエルの声明を出したことがある)が、マンチェスター郊外ロッチデール選挙区での下院補選で選出された。

彼は挑発的発言を繰り広げ、イスラエルをナチス・ドイツにたとえたり、シオニズムをナチズムに、イスラエルの行動をホロコースト(600万人のユダヤ人が犠牲になった)にたとえたりもした。ユダヤ人団体「英国ユダヤ代表委員会」は、彼の当選を受けて「ユダヤ人コミュニティーにとって失意の日」と述べ、彼を「扇動的陰謀論者」と非難した。

自分の宗教や出自に基づいて投票するように

ギャロウェイやコービン、そして彼らの同類たちは、イギリスで増長する「部族主義」をあおり、そこから恩恵を受けている。部族主義の下では、人々は「アイデンティティー」や宗教、人種、性的指向などに基づいて投票する。これは現代イギリスの大きな成功の1つ――さまざまな背景を持つ人々が共存し、「自分たちのグループは常に正しい」という考えではなく、「合理的」な理由に基づいて投票してきたこと――を覆す。

イギリスにおける反ユダヤ主義の台頭はそれだけでも十分警戒すべきだが、同時にもっと大きな問題も示唆している。つまり、人は自分たちの側の利益のために行動していると思えば、極端な立場を取ることを躊躇せず、一切の批判を拒絶してもそれを正当と感じる、ということだ。

ニューズウィーク日本版 トランプの帝国
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年2月10号(2月3日発売)は「トランプの帝国」特集。南北アメリカの完全支配を狙う新戦略は中国の覇権を許し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、応急管理相を調査 規律・法律違反の疑い

ワールド

25年ノーベル平和賞の情報漏れ、デジタルスパイの可

ワールド

中国、EU産乳製品調査巡り関税率引き下げ=欧州業界

ビジネス

東京外為市場・午前=ドル155円挟み上下、日銀タカ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 2
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」から生まれる
  • 3
    世界初、太陽光だけで走る完全自己充電バイク...イタリア建築家が生んだ次世代モビリティ「ソラリス」
  • 4
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 5
    中国がちらつかせる「琉球カード」の真意
  • 6
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 7
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    【銘柄】「大戸屋」「木曽路」も株価が上がる...外食…
  • 10
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 5
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story