コラム

「王らしくない」「疲れて見える」...そんなチャールズ新国王のパイオニアな一面

2023年05月25日(木)12時05分
チャールズ新国王

戴冠式では多様な宗教の代表者に囲まれた(5月6日) POOL NEW-REUTERS

<新国王について今のところイギリス人が語る言葉はパッとしないが、実は賞賛すべき側面もこんなにある>

わが新国王について、イギリスの人々が(君主制反対の共和制支持者だけでなく)ささやいているのは次のようなものだ。

いわく、国歌で「クイーン」でなく「キング」と歌うのはいまだに違和感がある、王であるというより王の物まねのようだ、戴冠式の最中は厳粛に見えるよう努力していただろうが不安そうで疲れたように見えただけだった、など。過去には彼は、少々「ウェット」で、奇抜で、自らの役割に混乱しているようだ、としばしば評されていた。

言われていることのうち一部はもっともなこと(僕たちは「ゴッド・セーブ・ザ・クイーン」と70年も歌っていたのだ)。そして一部は無理もないことだ(多分、君主の最初の一歩は、君主らしく演じることから始めるのだろう)。

それにチャールズ国王は、戴冠式が正しく行われ、その地位にふさわしいものになるようにしたいと望むあまり、確かに不安を感じていたかもしれない。でもシェークスピア風に言わせてもらうとしたら、「僕はチャールズを称賛するために来た。けなすのではなく」。

いくつかの点で、チャールズはパイオニアであり、その特権的生活から考えれば堅実な人物だし、まともで思慮深い人であるといえる。

もしも30年前に、チャールズに関して何が一番有名かと聞かれたら、「植物と会話すること」と答えていたかもしれない。それ自体は確かに奇妙だが、大局的に見れば彼は環境保護主義者としてのアイデンティティーをつくり上げていたということになる。彼が最初にこの題材について発言したのは1970年。川や水辺へのプラスチックごみ投棄に懸念を示したのだ。

まだ多くの人々が気候変動を単なる「一説」と捉え、世界の喫緊の課題には程遠いと考えていた数十年前から、彼は一貫してこの問題に声を上げ続けた。そんなふうに、チャールズは母エリザベス女王とはかなり違う人物像を印象付けてきた。事後対応ではなく先手行動派だ。

エリザベス女王は、例えば国民の環境意識が高まるなか2018年に宮殿で使い捨てプラスチックの使用を禁じるなど、重要な理念を疑いようもなく推し進めたが、先頭に立ったというわけではない。

今のチャールズはむしろ、かつて自分が変人、ヒッピー的とみられていたことを得意に思っている。

ビジネスマンとしての手腕

他にもチャールズは、英君主の称号である「信仰の擁護者」(イングランド国教会首長)ではなくいつか「あらゆる信仰の擁護者」になりたいと1994年に発言して物議を醸し、あざ笑われたこともある。

今回の戴冠式で伝統的な呼び方が変更されることはなかったが、その間にもイギリスは、チャールズが語っていた、より多様性のある価値観へと劇的に変化してきた。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:マスク氏の新党構想、二大政党制の打破には長く

ビジネス

6月工作機械受注は前年比0.5%減=工作機械工業会

ワールド

解任後に自殺のロシア前運輸相、横領疑惑で捜査対象に

ビジネス

日産、米国でのEV生産計画を延期 税額控除廃止で計
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワールドの大統領人形が遂に「作り直し」に、比較写真にSNS爆笑
  • 4
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 7
    自由都市・香港から抗議の声が消えた...入港した中国…
  • 8
    人種から体型、言語まで...実は『ハリー・ポッター』…
  • 9
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 10
    「けしからん」の応酬が参政党躍進の主因に? 既成…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 8
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 9
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 10
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story