コラム

100年を迎えた英領北アイルランドの複雑すぎる歴史と現状

2021年06月05日(土)12時15分

アイルランドには長年テロや暴力が付きまとってきた(写真は今年4月の抗議デモで炎上するバス) Jason Caimduff-REUTERS

<テロと暴力が続くが単純に線引きも解決もできない北アイルランド問題を読み解く入門、その前篇>

英領北アイルランドは、誕生から100年を迎えた。でも、北アイルランドには長年にわたりテロリズムや集団暴力が付きまとい、世界でも問題山積の場所であるだけに、100周年の「お祝いムード」とはとても言えないだろう。比較的平和な期間が長く続いた後、今年に入り新たな暴力が発生しているから、ハッピーな周年記念とは程遠い。

北アイルランドが世界の人々によく理解されているとは思わないから、僕はいくつかの考察を記しておこうと思う。深い分析と言うよりはちょっとした「入門編」のようなものだ。

ところで、北アイルランドの状況は、(北アイルランド以外の)イギリス国内でさえちゃんと理解されていない。多くの人々は北アイルランドの話題になっても退屈そうにするだけ。北アイルランド問題は複雑で、平均的なイギリス人にとってはあまり考えたくない「頭痛の種」でしかない。

もちろん北アイルランドはイギリスの一部だから、僕たちイギリス人は目をそらすわけにいかない。もし北アイルランドに面倒が起これば、僕たちの国が起こした問題であり、僕たちイギリス人が対処しなければならない問題なのだ。

人口動態は大きく変化している

世界中の多くの人々、特にアイルランド系アメリカ人は、なぜイギリスは単純に北アイルランドをアイルランドに「返還」しないのか、と疑問を口にする。簡単な答えは、「北アイルランド住民の過半数がそれを望まないから」だ。

僕は子供時代に学校で、だいたいの数字を習ったことを覚えている。北アイルランドの人口は150万人、そのうち90万人はプロテスタント(そしてそれ故にイギリスの一部であることを望む)で、60万人はカトリック(それ故にアイルランドとの統一を望む)。

アイルランドがそもそも1921年に分割された理由もそこにある。南アイルランドはイギリスからの独立を達成したが、大多数がイギリス残留を望んだ北アイルランドに関しては、イギリスが統治を維持した。

こうした人口動態は僕が生まれてからの年月の間でさえ、著しく変化した。大きな理由はカトリックの家族のほうが伝統的により多くの子供を儲けるからだ。最新のものである2011年の人口調査では、北アイルランドの人口は180万人でプロテスタントを「自認」するのは48%、カトリックを自認するのは45%(当然、中には自分が信仰を持たないことを言いたがらない人もいれば、どちらに属するかを明らかにしたがらない人もいる)。最新の調査は今年行われている。ひょっとすると、今回の結果では(まだ発表されていないが)カトリックがプロテスタントの数を既に上回っている可能性だってある。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story