コラム

「イギリス人は階級が9割」......じゃない!

2015年08月11日(火)16時50分

■むしろ大きいのは個人の性格と人生の選択

 シリーズ1作目には明確なメッセージがある。上流階級の子供は自分の行く道も、成功が約束されていることも分かっている、というものだ。上流階級の少年3人は、どのパブリックスクールに行き、その後オックスフォードかケンブリッジ大学のどちらを目指すかを語っている(やがてその言葉通りになる)。上流階級でない少年たちは、いかにも少年らしいことを言う。ニールがなりたいのは「宇宙飛行士かバスの運転手」。ポールは質問されて「大学って何?」と聞き返す。サイモンは「仕事をする前に、あちこちに行っていろんなものを探したい」と話す。

 少女たちは、将来どんな家庭を望むかについてしゃべるよう誘導されているようだ(制作側もこれは失敗だったと認めている)。僕が彼女たちに共感できなかったのはこのためだろう。7歳児なら、いつかいい人と結婚して子供を持っていい家に住みたい、なんて言うのは当たり前のことなのだから。

 でも番組が7年ごとに進むにつれて、出身階級が必ずしも人を運命づけるわけではないことが見えてくる。労働者階級のトニーは競馬の騎手になることを夢見て、懸命に努力した。目標に近づき、実際にレースに何度か出場したが、プロとしてやっていくのは難しいと判断された。その後、彼は強い決意で「専門知識」を見につけ(ロンドンのあらゆる道を頭にたたき込んだ)、個人タクシーのドライバーになった。彼は成功し、35歳で裕福に暮らしている。ロンドンにしゃれた家を所有しているだけでなく、自分の子供たちにも乗馬の楽しさを教えるため、ポニーを買い与えている。

 農家の息子ニックが通った過疎地域の学校は、クラスに彼1人しか生徒がいなかった。それでも彼はオックスフォード大学に進学して物理学を学び、後にアメリカの大学で教壇に立つようになる。

 中産階級のニールの物語には胸が痛くなる。両親とも教師で賢く陽気だった彼は、21歳で心を病んでしまう。空き家で寝泊まりし、ボロボロの服を着て建設現場で働いている。彼が大学を中退したのは、目指したオックスフォードに進めなかった失望感からかもしれない。彼の精神的な問題が育った環境のせいなのかどうかは、番組では深入りしていない。彼は28歳でも35歳の時点でも失業手当で暮らし、時にはホームレスになっていた。

 それでもニールは誠実さと思慮を失わない。希望を抱き続け、自分が暮らす社会に貢献したいと考えている(遠く離れたスコットランドの島に暮らし、地域の小学校でクリスマス劇をプロデュースしたという)。

 施設にいた少年たちは幸せに暮らしているが、輝かしいキャリアは築いていない。2人ともこの結果は自分の恵まれない環境のせいではなく、自身の性格や自分で下した人生の選択のためだと考えている点は、興味深いし立派だと思う(サイモンはあまり野心家じゃなさそうだし、ポールは心配性だ)。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米テキサス州洪水の死者32人に、子ども14人犠牲 

ビジネス

アングル:プラダ「炎上」が商機に、インドの伝統的サ

ワールド

イスラエル、カタールに代表団派遣へ ハマスの停戦条

ワールド

EU産ブランデー関税、34社が回避へ 友好的協議で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story