コラム

増税延期に使われた伊勢志摩「赤っ恥」サミット(前編)

2016年06月03日(金)17時30分

 なお「リーマンショック前の状況と似ている」とは言っていない、商品価格等から「リーマンショック以来の落ち込みを見せているとの事実を説明した」上で世界経済のリスクを指摘したと弁明しているようですが、どちらに転んでも整合性が付かないため、"so what?" (リーマンショック以来の落ち込みを商品価格が見せたからといって何なんだ?)と各国首脳が反応したのも無理はありません。

 フランスのル・モンド紙などは「危機感を強調する安倍氏にG7は唐突さを感じた」とのタイトルで仏オランド大統領の記者会見での言葉を引用しながら、米国の経済状況は改善しており、それほどではなくとも欧州の景気改善も指摘。不安があるとすれば中国のような新興国が困難に直面していること、原材料価格の価格変動が激しいこと、為替相場が安定に欠くこと、との3点が全員で共有した要素であること。余談ではありますが、日本国内で出回っているこのル・モンド紙の記事の紹介は、安倍総理の発言がG7の他のメンバーに見当外れと受け止められた事実を示す表現を、やや過剰に誇張しながら翻訳している、というのが『シャルリとは誰か?』(文春新書)がベストセラーとなっているフランスの歴史人口学者・家族人類学者であるエマニュエル・トッド氏の著作などを翻訳している堀茂樹教授の談です。

 ル・モンド紙と言えば中道左派をイメージされるかもしれませんが、今や社会経済で左派とは言い切れず、堀教授の言葉を借りれば現状は「わりと新自由主義的」とのこと。あまりセンセーショナルなことは報道したがらないところは昔と変わらずではありますが、そのル・モンド紙をもってして、2014年から2016年までの商品価格の55%下落を示す資料を持ち出して、その下落の割合が2008年と似ている、現在の状況は2008年のサブプライム危機に類似した危機がやってくる状況と議長国である日本の安倍氏は強調したと書いている以上、各国首脳はそう受け止めたということでしょう。そして、仮に本意と違っていたとするならば、国際会議の場でキチンとその主張が各国首脳に伝わらなかったことになり、それはそれでかなり重大な問題を秘めていると言わざるをえません。

後編に続く

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル対円で一時9カ月半ぶり高値、高市

ビジネス

米国株式市場=S&P4日続落、割高感を警戒 エヌビ

ワールド

トランプ氏支持率、2期目最低 生活費高やエプスタイ

ワールド

トランプ氏、サウジ皇太子と会談 F35売却と表明 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story