増税延期に使われた伊勢志摩「赤っ恥」サミット(前編)
「謎」の資料について。端的に何が問題かと言えばデータを使用して説明する経済分析の因果関係が滅茶苦茶ということに尽きます。これが「そもそも論」のその②と関係することでもあります。言った・言わないの次元にあらず。
提出された資料のグラフはIMFが公表しているコモディティ・プライス・インデックス(商品価格指標)が出典元であり、何ら怪しいデータではありません。IMFのHPで公表している月間データを使えば誰でもグラフを再現することができます。
リーマンショックは2008年9月15日に米投資銀行のリーマン・ブラザーズが経営破たんをし、金融危機のトリガーとなった事象です。今回資料を使用した目的は「リーマンショック前後」の中国など新興国を含む世界の景気後退の根拠として示したかったようです。ちなみに、IMFによれば中国の2008年のGDPは9.6%、2015年は6.9%、2016年の予想は6.49%となっています。
既に複数の有識者が指摘されているように、リーマンショックは何も世界景気が後退したから発生したわけではなく、レバレッジをかけ肥大化し過ぎたサブプライム・ローンに代表される「証券化商品」の大暴落によって誘発されたもので(原因)、金融危機が波及し市場の流動性が急激に枯渇する中、慌てて投資・投機資金が各市場から撤収したため商品価格が下落(結果)したものです。商品価格の下落が金融危機を引き起こしたわけではありませんので、資料を使った説明では因果関係がむしろ逆。
因果関係が無茶苦茶なのは今に始まったことではありませんが(景気が良くなれば結果としてインフレにもなり得るということに過ぎないにも関わらず、モノの値段だけ上がる国民経済にとっては悪いコスト・プッシュ・インフレと、需要増がモノの値段を引き上げ景気の好循環をもたらすような好ましいディマンド・プル・インフレの区別も明確にせず、インフレにさえにすれば景気がよくなるはずなどとする政策などその最たるものですが)、結果のためには手段(=無茶な理由づけ)を選ばず、が国内では通じても国際社会では通じないということが今回のサミットでよくわかったのではないでしょうか。
結果として発生している経済現象と、それを引き起こす原因とを混同していることが実はアベノミクスが上手くいかない最大の原因でもあります。それがサミットの場を通じて露呈したわけですが、これは安倍総理1人の責任ではなく、こうした経済政策の矛盾や齟齬を積極的に指摘・修正する努力もせず、そのまま放置してきた経済の専門家、国内メディアに重大な責任があるのはもちろん、厳しい言い方ではありますが勉強不足の我々国民サイドにも責任の一端はあると思います。
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