「世界が日本に迫る消費税増税」報道の幻
話をわかりやすくするために、敢えて単純な比較をしますが、欧州各国の国税収入に占める付加価値税収の割合は、非常に大まかに20%~30%といったところです。対して日本は消費税5%時代(うち4%が国税)ですでに国税収入に占める消費税収の割合は約20%となっていました。欧州の付加価値税率に比べて格段に低い日本の消費税率でも、これだけ徴税力が高いのは軽減税率がないため。報告書の言葉を借りれば単一税率は「税収を捻出するのに有効」となるわけです。払う側からすれば、低い税率であっても負担が非常に大きいということでもあります。
他、OECDが軽減税率を否定する理由として、「特に中小企業には高い管理費およびコンプライアンスのコストとなる」こと、「不正手段の機会(opportunities for fraud)を提供する」こと、「消費の決定を歪曲し、福祉を減少、付加価値税の中立性を減らす」ことを掲げています。そして、複数税率のメリットは高所得者層が最も恩恵を受けるとして逆進性解消にも効果的ではないとしています。「不正手段の機会」はわかりにくいかと思いますが、偶然にも以前のワタクシの寄稿がありますので、こちらを読んでいただくと軽減税率の何が不正手段となりうるのか、税源を浸食し中立性を欠くのかご理解いただけるのではないでしょうか。
軽減税率に賛成している新聞業界だからこそ、都合の悪い内容を封印してしまうのでは?という声が聞こえてきそうなのですが、それもちょっと違うかなと思っています。というのも、ワタクシ事で恐縮ですがこれまで随分と日本全国で講演のお声がけをいただきまして、その主催者の多くは通信社さんであったり、地方紙さんであったり。当然、消費税や軽減税率の問題もお話しますが、決して少なくない新聞各社の方々が「軽減税率が新聞離れの根本的な問題を解決するとは思ってないんですよね」と仰って下さり、問題意識の共有をしてくれます。
失礼を承知の上で、新聞離れの最大の原因は、特に国民生活に深く関わる事象について、情報を横流しするだけの画一的な内容となってしまうことではないでしょうか。とは言え、新聞社の看板というのはやっぱり一目置かれる存在であり、ワタクシがこれまでお目にかかった関係者の皆さんはたとえ現場の第一線を退いておられても記者としての気概も持っていらっしゃるし、情報へのアクセスも素人の我々に比べれば格段にしやすいはず。読者を惹きつけるために奇をてらう必要は全くなく、一時資料に沿った内容を公平、中立な立場で報道してもらうという、言うなれば基本に忠実な報道が玉石混交となったネット社会の現代であるからこそ求められていて、そこに王道メディアの存在意義があると思うわけです。
今回の場合は、OECD報告書の原文に則して忠実に報道した方が、歳入増を図る財務省の意向にはむしろ添えたわけではありますが、仮にメディア側が掌を加えるようなことがあるとするなら、そのエネルギーは別のところで是非とも使ってもらいたいものです。報道に携わる者としての矜持はそのままに。その方がご自身の精神衛生上も、業界の発展のためにも、そして何より読者のために有効です。というわけで、記念すべき連載第1回目のメインテーマはOECDの報告書でしたが、サブテーマは日本のメディア関係者へのエールと致したいと思います。
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