コラム

Dappi問題で置き去りにされた「敵」を叩くより大事なこと

2022年10月29日(土)15時41分
Dappi、ツイッター

疑惑の追及も、政党の情報発信に関する議論も中途半端なままだ(引用元:https://twitter.com/dappi2019)

<自民党とのつながりが指摘される謎のツイッターアカウント「Dappi」の正体は未だ不明だが、この話題への関心が薄れるとともに政党とメディアに関する重要な論点も放置されたままだ>

「Dappi」をご存じだろうか。与党を擁護し、野党政治家やメディアをターゲットに、罵倒と捉えられてもおかしくない投稿を繰り返したツイッターアカウントだ。

昨年10月、立憲民主党の2議員がこのアカウントを運営していたIT関連企業を名誉毀損で訴えた。この企業はウェブサイトや広告の企画・制作を請け負う会社で、主だった取引先の1つに自民党の名前があったことで、ネット上の話題を一手に集めた。

私はまだ決着がついていない訴訟の行方に大いに注目にしているのだが、この一件が注目を集めた最大の理由についてはすっかり議論が低調になってしまった。すなわち、政府与党である自民党が、一個人に見せかけてアカウントを運用させ、野党を攻撃していたのではないか。プロパガンダを仕掛けていた可能性があるのではないかという論点だ。当時、インターネット上にはDappi 問題は日本政治史に残るスキャンダルだという声まであった。自民党は大打撃を受けると予測する人々もいた。

ハッシュタグが作られ、報道機関にもっと報道するよう求める声も多く上がっていた。こうした声を受け、実際に多くのニュースも出た。それも一報にとどまらず、かなり深掘りを試みたものもあった。だが、自民党が組織的にプロパガンダを仕掛けたという証拠は、今に至るまで出てこないままだ。

ちょうど時期を前後して、立憲民主党がネットメディア「ChooseLife Project」に番組制作費という名目で約1500万円もの資金を提供していたことが明るみに出て、政党とメディアの関係は大きな議論になったが、これもすっかり過去の話題になっている。

一連の問題は、より深い議論のきっかけになり得た。無党派層が増えているということは、政党と有権者の関係が希薄になっているということだ。インターネットやSNSを含めたメディアを介して有権者とつながるという手段は極めて有効だが、それがルール無用の「野放し」でいいのか。

プロフィール

石戸 諭

(いしど・さとる)
記者/ノンフィクションライター。1984年生まれ、東京都出身。立命館大学卒業後、毎日新聞などを経て2018 年に独立。本誌の特集「百田尚樹現象」で2020年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を、月刊文藝春秋掲載の「『自粛警察』の正体──小市民が弾圧者に変わるとき」で2021年のPEPジャーナリズム大賞受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)、『ニュースの未来』 (光文社新書)など

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story