コラム

なぜEUは中国に厳しくなったのか【後編】3つのポイント=バルト3国、中露の違い、ボレル外相

2021年07月09日(金)20時49分

彼が進める対中政策は、今後どのようなものになっていくのだろうか。少なくとも日本のように、お金と人権問題を天秤にかけて、人権問題を犠牲にすることはないに違いない。

参考記事1(2018年6月):イタリア:五つ星運動と同盟の極右連立政権にみる欧州の苦悩 移民問題であなたは人権を語る資格があるか

参考記事2(2018年6月):2018年前半の欧州を振り返る。極右とスペイン左派政権(ボレル・スペイン外相・元欧州議会議長インタビュー紹介)

終章:インド太平洋へ。そして「EUの独自性とは何か」という問い

EUは5月、インドとの自由貿易協定の交渉を再開することを決定した。

何年も交渉したのち、2013年に一度挫折していたものだ。

ポルトガルのポルトで行われた欧州首脳会議では、インドの首相モディ氏が、オンラインで招待された(コロナ禍のために訪問は取りやめた)。

共同インフラ計画の話や、投資協定の可能性など、これまでEUと中国の間で主に扱われてきたテーマがたくさん出てきたという。

インドは中国ではなく、一方が他方に取って代わることはない。しかし、コロナ禍という悲劇に見舞われ、アジアの大きなライバルに対して弱腰になっているインドにとっては、この和解の利益をEUと共有しているのだという

さらに6月、バイデン大統領は、G7サミットと北大西洋条約機構(NATO)の会議に参加するために、欧州を訪問した。

バイデン氏は、独自の冷静かつ直接的な方法で、G7、NATO、EUとアメリカの制度的な関係において、「中国の挑戦」というテーマを同盟国に課すことに成功した

中国の軍事的挑戦、国際秩序、ヨーロッパ人にはとうてい受け入れられない中国の基準や規範・・・でもそれらは、元々はソ連(ロシア)をターゲットに設立されたNATOとどのような関係があるのだろうか。

さらに、トランプ時代に、EU内で「戦略的自律性」が叫ばれて、欧と米の違いを反発によって考える時代を、ヨーロッパ人は経験してしまった。中国は遠いし、貿易には大きな魅力がある。

それに、対中人権問題では一致したくても、親中的なハンガリーというたった一国のみが反対するがゆえに、足並みが揃えられない困難がある。これをどう解決するかという、制度改革の問題にも取り組む必要がある

歴史の水脈はアジア・太平洋へーーそのような大きな変化の中で、いまEUでは、真剣に「EUの独自性とは何か」を考える時代が到来している。

日本はどうだろうか。欧州とまったく異なり、中国の隣国である日本は、ますます軍事やその他の問題で、アメリカに頼るようになるだろう。

しかし、欧州とは逆のベクトルだが、アメリカに追随すればするほど、同じように日本人にも「日本の独自性とは何か」という問いが必要になってくるのではないか。<前編へ>

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米アトランタ連銀総裁、任期満了で来年2月退任 初の

ワールド

トランプ氏、12日夜につなぎ予算案署名の公算 政府

ワールド

イランの濃縮ウラン巡る査察、大幅遅れ IAEAが加

ワールド

世界原油需給、26年は小幅な供給過剰 OPECが見
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 2
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 3
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働力を無駄遣いする不思議の国ニッポン
  • 4
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 9
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 10
    「麻薬密輸ボート」爆撃の瞬間を公開...米軍がカリブ…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story