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なぜEUは中国に厳しくなったのか【後編】3つのポイント=バルト3国、中露の違い、ボレル外相
彼が進める対中政策は、今後どのようなものになっていくのだろうか。少なくとも日本のように、お金と人権問題を天秤にかけて、人権問題を犠牲にすることはないに違いない。
参考記事1(2018年6月):イタリア:五つ星運動と同盟の極右連立政権にみる欧州の苦悩 移民問題であなたは人権を語る資格があるか
参考記事2(2018年6月):2018年前半の欧州を振り返る。極右とスペイン左派政権(ボレル・スペイン外相・元欧州議会議長インタビュー紹介)
終章:インド太平洋へ。そして「EUの独自性とは何か」という問い
EUは5月、インドとの自由貿易協定の交渉を再開することを決定した。
何年も交渉したのち、2013年に一度挫折していたものだ。
ポルトガルのポルトで行われた欧州首脳会議では、インドの首相モディ氏が、オンラインで招待された(コロナ禍のために訪問は取りやめた)。
共同インフラ計画の話や、投資協定の可能性など、これまでEUと中国の間で主に扱われてきたテーマがたくさん出てきたという。
インドは中国ではなく、一方が他方に取って代わることはない。しかし、コロナ禍という悲劇に見舞われ、アジアの大きなライバルに対して弱腰になっているインドにとっては、この和解の利益をEUと共有しているのだという。
さらに6月、バイデン大統領は、G7サミットと北大西洋条約機構(NATO)の会議に参加するために、欧州を訪問した。
バイデン氏は、独自の冷静かつ直接的な方法で、G7、NATO、EUとアメリカの制度的な関係において、「中国の挑戦」というテーマを同盟国に課すことに成功した。
中国の軍事的挑戦、国際秩序、ヨーロッパ人にはとうてい受け入れられない中国の基準や規範・・・でもそれらは、元々はソ連(ロシア)をターゲットに設立されたNATOとどのような関係があるのだろうか。
さらに、トランプ時代に、EU内で「戦略的自律性」が叫ばれて、欧と米の違いを反発によって考える時代を、ヨーロッパ人は経験してしまった。中国は遠いし、貿易には大きな魅力がある。
それに、対中人権問題では一致したくても、親中的なハンガリーというたった一国のみが反対するがゆえに、足並みが揃えられない困難がある。これをどう解決するかという、制度改革の問題にも取り組む必要がある。
歴史の水脈はアジア・太平洋へーーそのような大きな変化の中で、いまEUでは、真剣に「EUの独自性とは何か」を考える時代が到来している。
日本はどうだろうか。欧州とまったく異なり、中国の隣国である日本は、ますます軍事やその他の問題で、アメリカに頼るようになるだろう。
しかし、欧州とは逆のベクトルだが、アメリカに追随すればするほど、同じように日本人にも「日本の独自性とは何か」という問いが必要になってくるのではないか。<前編へ>
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
※筆者の記事はこちら。
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