コラム

5大陸の首脳27人が署名した「パンデミック条約」の仕掛け人と中身【声明全文訳付き】

2021年04月01日(木)15時20分

そして同年12月、シャルル・ミシェルEU大統領が国連総会で、パンデミックに対応する国際条約を提案した。

同じく12月にはEU加盟国が、翌年2021年2月にはG7諸国が、国際的な保健協力を強化するための条約の可能性を支持した。

マクロン大統領とビル・ゲイツが主導か

ただし、G20の主要メンバー、日本を始め米国、ロシア、中国、インド、ブラジルの首脳は、この声明の署名者には含まれていない。ドイツもフランスも英国も参加しているのに、日本が参加していないのは、実に悔やまれることだ。

声明の内容を読んでみると、まるでフランス革命後にうちたてられた人権宣言を読んでいるかのようである。人権宣言は、第2次世界大戦後の1948年12月、第3回国連総会で「世界人権宣言」として採択された。「すべての人民とすべての国が達成すべき基本的人権」について述べられている。

最初の「ACT Accelerator」の取り組みが、国の首脳ではマクロン大統領しか入っていないことから、彼がEUに働きかけ、賛成した欧州委員会と共にWHOに働きかけたという線が、濃厚に思える。

そしてマクロン大統領とビル・ゲイツ夫妻は、2017年にフランスで行われた「ワン・プラネット・サミット」(気候変動会議)でも、親しい様子を見せていた。

おそらくこの案は、フランスから発せられたものではないかと思う。特にマクロン大統領とビル・ゲイツのつながりは、注目に値する。

世界的パンデミックに対応するために、「連帯(古くは「博愛」と呼んだ)」が必要であるという考え。人間は「平等」に治療にアクセスする権利があるといった内容(フランスには非正規滞在者=違法滞在者にも健康保険が存在する。「健康と治療は全人間の権利」という考えからである)。世界や社会、人間を「一つ」とみなす思想。

これらのことから、実にフランス主導の可能性が高いと思う。追加の情報を入手したら、また報告したい。

このトリビューン(声明)には、アメリカがつくった第二次大戦後の現代の世界秩序に対して、EUという大組織を使って大きな挑戦をしたいという意図が感じられる。

アメリカがつくった新世界秩序は「自由」が基礎ならば、EUがつくろうとする新秩序は「平等」が基礎となるだろう。

【トリビューン全文】

新型コロナウイルス(Covid 19)のパンデミックは、1940年代以降、国際社会が直面している最大の課題です。当時、リーダーたちは、2つの世界大戦によって引き起こされた大惨事を正しく把握し、多国間システムを形成したのでした。

目的は明確でした。各国を一つにまとめ、孤立主義やナショナリズムの誘惑を回避し、問題に向き合うこと。そして問題は、連帯と協力の精神、すなわち、平和、繁栄、健康、安全のもとでのみ共通の解決策が可能なのです。

私たちは、新型コロナウイルスのパンデミックを克服するために共に闘っていますが、私たちの今日の願いは同じです。次世代を守るために、国際保健の分野で、より強固な体制を構築することです。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英財務相、予算案で個人所得税を増税する方針=報道

ワールド

原油先物、小幅反発も2週連続下落見通し 供給懸念が

ワールド

政府、対日投資の審査制度を一部見直しへ 外為法の再

ビジネス

日経平均は5万円割れ、一時1000円超安 主力株が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 5
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 6
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 9
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 9
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story