コラム

文在寅大統領は何がしたいのか、なぜ韓国はGSOMIAで苦しむか

2019年11月29日(金)14時30分

その中でも特に、ウクライナが、EUの加盟国候補になるための最初のステップである「連合条約」をEUと結んだのは、ロシアに強い衝撃を与えた。ウクライナの首都キエフは、ロシアの発祥の地となっている。

それは兄弟の決裂であるかのようだった。このために、2014年にロシアが、選挙結果という名目で「クリミア併合」を行ったのは、それほど昔のことではない。

こうしてプーチン大統領は、EUに対抗すべく、同じく2014年に「ユーラシア経済連合(EAEU)」を立ち上げた。モデルはEUである。

現在、ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、アルメニアが加盟国である。これは小さいながらも「連合」である。「連邦」とも訳せる。元ソ連のメンバーたちなので、「連邦」のほうがいいかもしれない。なので、他の組織よりは結束力が強い。様々な場面で核となることのできる組織である。

そして、上海協力機構と加盟国がかなりかぶっている点が重要だ。「様々な場面で核となる」には、この機構も入っている。

これは、ロシアが大西洋の方を向きながら、ヨーロッパとアメリカと対峙する試みであると言っていいだろう。

中国の一体一路とTPP

一方で、太平洋の方を向きながら、アメリカに対峙する試みがあった。

それは、2013年に発表された、中国の「一帯一路構想」である。

このころオバマ政権では、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)構想と各国との交渉が着実に進んでいたのである。

翌年2015年には、TPP協定の全体が暫定条文の形で初めて公表された。この同じ年に、プーチン大統領と習近平国家主席は、「ユーラシア経済連合」と「一帯一路構想」を連携させるとする共同声明を発表した。

「上海協力機構」では、ロシアと中国が共にある。つまり「ユーラシア経済連合」と「一帯一路構想」の話し合いは、この機構の舞台で話し合えると言っていい。

ただし、「上海協力機構」は、軍事的性格を帯びていることは要注意である。2007年には、6カ国による初の合同軍事演習(平和への使命2007)を行った。アメリカとの軍事も含めた対立が深まるに連れて、「上海協力機構」の重要性に注意する必要が出てきた。

近年では、2017年にはインドが加盟し、現在はウズベキスタン・インド・パキスタンが加わって8カ国である。オブザーバー、対話パートナー、参加申請国、客員参加など、どんどん関連国の数が増えている。だからこそ中国は、ここで「新しい多国間貿易システムをつくろう」と提唱したのだろう。

韓国の「ユーラシア・イニシアチブ」

韓国はここにどうからむのだろうか。

朴槿恵・前大統領は、このような動きを受けて、2013年「ユーラシア・イニシアチブ」という新しい戦略構想を提案した。

メインの計画は、釜山を出発し、北朝鮮、ロシア、中国、中央アジア、欧州を貫通する『シルクロード・エクスプレス』を実現することだ。

もともとの目的は、北朝鮮をどう国際社会に編入させるかという構想から始まったという。過去の対米一辺倒の外交から抜け出し、鉄道・ガス管・送油管などを通じてロシアと連係すれば、北朝鮮を自然に経済的協力網に組み込めると考えたというのだ。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米2月求人件数、19万件減少 関税懸念で労働需要抑

ワールド

相互関税は即時発効、トランプ氏が2日発表後=ホワイ

ワールド

バンス氏、「融和」示すイタリア訪問を計画 2月下旬

ワールド

米・エジプト首脳が電話会談、ガザ問題など協議
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story