コラム

独裁者アサド「復活」を歓迎する中東諸国...アメリカの意向より大切なものとは?

2022年04月12日(火)18時15分
ムハンマド皇太子とアサド

UAEを訪問しムハンマド皇太子と握手するアサド(3月18日) SYRIAN PRESIDENCY FACEBOOK PAGEーAP/AFLO

<シリア内戦で国際的に孤立していたアサドが、周辺国と続々「和解」している。ロシアのウクライナ侵攻を称賛するアサドの復活が意味すること>

ロシアのウクライナ侵攻と歩調を合わせるかのように、シリアのアサド大統領が国際社会に「復帰」しつつある。

2011年にシリアで始まった反体制抗議運動をアサド政権は強硬に弾圧。アラブ連盟はシリアを資格停止とし、西側諸国は制裁を科した。ところが11年前に反体制派を支援したアラブ首長国連邦(UAE)は3月、訪問したアサドを温かく迎え入れ、アブダビ首長国のムハンマド・ビン・ザーイド皇太子が「この訪問がシリアと地域全体にとっての利益、平和、安定の始まりとなることを望む」と述べた。

UAEは18年12月に在シリアの大使館を再開し、昨年11月に外相を首都ダマスカスに派遣した。ヨルダンも既にアサド政権との関係を回復させ、アメリカに対シリア制裁解除を呼び掛けている。

一方、米国務省のプライス報道官はアサドのUAE訪問を「無数のシリア人の死と苦しみに責任を負うアサドを正当化しようとする試み」だとし、「深い失望」を表明した。

アサドとの関係修復についてUAEのガルガーシュ大統領外交顧問は「地域における危機の解決策を見つけるための実践的なアプローチ」の一環だと説明した。「アメリカを失望させない」ことより地域の安全保障を優先するという、UAEの明白な意思表示である。

アラブ諸国にとって最大の脅威はイラン

UAEやサウジアラビアなどのアラブ諸国にとって最大の脅威はイランだ。しかしアメリカはイラン核合意再建を目指し、イランに妥協するばかりであり、その結果イランの支援するイエメンのホーシー派がUAEやサウジに対する弾道ミサイル・ドローン攻撃を激化させている。

1月以来、ホーシー派はUAEへの攻撃を繰り返し死者も出しているのに加え、3月末にはサウジの浄水場や石油関連施設を立て続けに攻撃。西部の都市ジェッダの貯蔵タンクが炎上する事態となり、米当局もイランによるホーシー派への武器供給が原因だと非難した。しかしアメリカはUAEやサウジの要請に反し、ホーシー派をテロ組織に指定することも、イランへの妥協的姿勢を改めることもない。

アサド政権にとってイランはロシアと共に、軍事的、経済的支援を続け国土回復を強力に後押ししてくれた盟友である。一方でアラブ諸国から見ればシリアはアラブの仲間であり、イランのようなイデオロギー的脅威でもない。シリアを懐柔し、シリアにおけるイランの影響力をそぐことでイランの脅威を封じ込めようというのがアラブ諸国の戦略だ。

プロフィール

飯山 陽

(いいやま・あかり)イスラム思想研究者。麗澤大学客員教授。東京大学大学院人文社会系研究科単位取得退学。博士(東京大学)。主著に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『中東問題再考』(扶桑社BOOKS新書)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

サマーズ氏、オープンAI取締役辞任 エプスタイン元

ワールド

ゼレンスキー氏、トルコ訪問 エルドアン大統領と会談

ワールド

米政権、消費者金融保護局局長にOMB幹部指名 廃止

ビジネス

米8月の貿易赤字、23.8%減の596億ドル 輸入
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、完成した「信じられない」大失敗ヘアにSNS爆笑
  • 4
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 5
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 8
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 9
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 10
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story