コラム

イスラム分離主義と戦うマクロンは「極右」でも「植民地主義者」でもない

2020年10月28日(水)17時10分

フランスでは9月25日にも、イスラム教の預言者ムハンマドの風刺画掲載で知られるシャルリ・エブド紙の元事務所前にいた人をイスラム教徒が肉切り包丁で切りつけるテロが発生した。

そして10月16日、表現の自由を教える授業中にムハンマドの風刺画を見せた中学教師が18歳のイスラム教徒難民に首を切断され死亡した。男は犯行後、「異教徒の指導者マクロンよ、ムハンマドをおとしめたおまえの犬1匹を処刑した」とツイートした。マクロンは犯人が打倒したかったのは共和国の価値観だと述べ、これが深刻なイデオロギー問題であることを強調した。

仏調査会社オドクサの最新の調査によると、約8割のフランス国民が法案を支持すると回答している。フランス国民はもはや、イスラム教徒もフランスに暮らし教育を受ければフランスの価値を受け入れるようになる、とは信じていない。

国民の支持を得て過激派対策に取り組むマクロンを右派の植民地主義者と非難するのは、客観的評価というよりプロパガンダである。レッテル貼りに惑わされることなく事実に目を向けない限り、問題の本質は見えてこない。

<2020年11月3日号掲載>

プロフィール

飯山 陽

(いいやま・あかり)イスラム思想研究者。麗澤大学客員教授。東京大学大学院人文社会系研究科単位取得退学。博士(東京大学)。主著に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『中東問題再考』(扶桑社BOOKS新書)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「イラン核協議は順調」、26日に3回目協

ビジネス

アルファベット第1四半期、売上高が予想上回る 広告

ビジネス

英中銀総裁「トランプ関税の影響注視」、英景気後退は

ビジネス

加藤財務相、「為替水準の目標」話題にならず 米財務
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考えるのはなぜか
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 5
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    「地球外生命体の最強証拠」? 惑星K2-18bで発見「生…
  • 8
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 9
    謎に包まれた7世紀の古戦場...正確な場所を突き止め…
  • 10
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story