コラム

英暴動は他人事ではない......偽・誤情報の「不都合な真実」

2024年08月16日(金)17時42分

スノーデンの告発でアメリカが世界中を盗聴していたことがわかったが、スノーデン以前は陰謀論扱いされていなかっただろうか? ツタンカーメンは伝説から事実に変わった。過去の薬害や公害では、当初は政府や科学者が認めなかったものの、のちに検証されたものも多い。

多くの人は、「時間の経過によって、誤りとか陰謀論と言われていたことが事実だったとわかることはありますね」というと肯定する。つまり、誤りや陰謀論の中には、事実になるものもあるということだ。逆に言えば、誤りと陰謀論を排除することは事実の可能性を消すことになる。解像度を高くして、社会の脅威となるものだけを慎重に峻別しなければならない。その基準はその時点で権威が認める事実であってはならない。なぜなら権威は「事実」を作ることができるのだ。むしろ権威の提唱する「事実」は検証すべき対象とすべきだろう。


 

攻撃側と同じかそれ以上に、解像度を高くすれば有効かつ副作用の少なく実効性のある対策はいくらでもある。民主主義を標榜する国で、この問題に取り組んでいる人々が早くそのことに気づくことを期待したい。

そうならなかった時、日本は中露の情報工作につけ込まれる隙の多い国になり、日本国内ではIBVEsによる事件が起きるだろう。ひとたび事件が起きれば過剰なメディアと政府のアナウンスでさらに多くの事件が誘発される可能性が高い。英暴動は他人事ではないのだ。

今回、ご紹介した問題は日本ではあまり紹介されていない調査研究で指摘されている。偽・誤情報、認知戦、デジタル影響工作は、さまざまな領域にまたがる問題であり、それらを網羅して調査研究している機関は世界のどこにもないと言ってもよいだろう。先日、日本国内にこの領域の知見を集めるハブになるための組織、新領域安全保障研究所が発足した。他分野の専門家が参加しており、僭越ながら筆者も末席を汚している。8月21日にウェビナーを行う予定になっている。今回、とりあげたテーマについてもご紹介する予定だ。関心ある方のご参加をお待ちしている。


ニューズウィーク日本版 独占取材カンボジア国際詐欺
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月29日号(4月22日発売)は「独占取材 カンボジア国際詐欺」特集。タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story