コラム

デジタル紛争の新たなステージ:イスラエルとハマスの情報戦が示すサイバー戦の進化

2023年11月07日(火)14時11分

多くのSNSプラットフォームで、ハマスに関連するアカウントが排除されているが、SNSは単体ではなく、総体として活用されており、特定のSNSプラットフォームからアカウントを排除してもその影響力を消すことはできない。2020年のアメリカ大統領選において、大手SNSプラットフォームや関係機関は偽情報を対策を講じ、ロシアなどの干渉排除を試みた。しかし、翌年2021年1月にはアメリカ連邦議事堂が暴徒に襲撃されるという未曾有の事態を招くこととなった。大手プラットフォームから排除された人々は小規模プラットフォームに集まり、そこでの発言が大手プラットフォームに拡散していくという構造ができていたのだ。アメリカのシンクタンクNEW AMERICAが明らかにしている。

ハマスのアカウントはTelegramでは排除されておらず、情報発信の中心となっている。ハマスの軍事部門アル・カッサム旅団のフォロワーは70万人を超えており、GAZA NOWはおよそ200万人に増加した。関連するアカウントのフォロワーも軒並み増加した。

Telegramには画像や動画の他に、寄付の依頼といったものもある。コンテンツは進化しており、迅速化かつ高度になって人々の注目を集めやすいものになっている。

ちなみにTelegramのアメリカの利用者は連邦議事堂襲撃事件のあった2021年1月以降、増加しており、増加した利用者の多くが、後述するように現在の社会体制に不満を持つ層が集まっている可能性が高い。

もともとハマスは1対多のコミュニケーションを好む傾向がある。ナラティブを厳しく管理して統制のとれたメッセージを伝えることを重要視しているためだ。この点でも多対多になりがちな他のSNSよりもメッセンジャーであるTelegramの方が適している。Telegramに投稿されたコンテンツはハマスの支持者たちが他のプラットフォームに拡散する流れは彼らの方向性に合致している。

なお、今回の紛争では前述のように偽の画像や動画がたくさん投稿され、すでにさんざん記事になっているので、本稿では個別の偽情報については割愛させていただく。

多数の偽画像や動画はいくつかの要因がかさなっている。ウクライナ侵攻の際にも同様の現象は見られた。おそらく今後なんらかの紛争が起きた際には同様のことが繰り返されるだろう。軍事的衝突は世界に拡散しにくくなっているが、ネット空間ではサイバー攻撃、世論操作、憎しみの連鎖が瞬く間に世界に広がる。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:軽飛行機で中国軍艦のデータ収集、台湾企業

ワールド

トランプ氏、加・メキシコ首脳と貿易巡り会談 W杯抽

ワールド

プーチン氏と米特使の会談「真に友好的」=ロシア大統

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 6
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 7
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story