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ウクライナとヨーロッパの衰退──理念と現実の間で
EUで成立しようとしている移民協定
EUでは歴史的な移民協定が決定されようとしている。この協定は2024年のEU選挙の前に最終決定となる。この協定が発効するとEU加盟国は一定の人数の移民を受け入れることになるが、1人当たり2万ユーロ(約300万円)を支払うことで受け入れを拒否することもできる。また、移民の受け入れプロセスも変更される。国境での事前審査によって、各人の行き先が決定されるのだが、その手続きには拘留が含まれることもある。
移民受け入れの数は、EU全体で30,000 人からスタートし、120,000人に達するまで毎年上昇すると予想されている。
EUが2020年9月にこの移民協定案を提示した際、70以上の団体が移民への対応を悪化させる危険性があると警告した。新しい協定にも国際的な人権擁護団体ヒューマンライツウォッチはこの移民協定が虐待の可能性を高めることを指摘し、非難している。最大で6ヶ月間も拘留される可能性があり、弱者や家族、子供に対する免除もほとんどない。できるだけ移民を強制送還するという狙いがあるように見えるとヒューマンライツウォッチは語り、2020年の案よりも悪化しているとしている。
この協定では、受け入れを拒絶した国が移民を送り返す先を決定することができるため、基本的な権利が保障されないリスクがある。送り先として可能性が高いのはチュニジアだ。チュニジアは、地中海を渡ってヨーロッパを目指す移民の主な出発地となっている。今年だけで72,000人の移民が地中海を渡り、そのほとんどがイタリアにたどり着いている。
チュニジアとEUは移民に対する協定に署名した。そこには密輸の阻止、国境の強化、移民の帰還のための費用1億1800万ドル(約170億円)が含まれている。この協定は経済危機に陥っているチュニジアを建て直す計画も含まれている。チュニジアは権威主義化が進んでおり、移民に手厚い保護を与えるとは考えにくい。EUは助けを求める移民を金でチュニジアに引き取らせ、チュニジアは金のために受け入れるという構図だ。
EU内部でも反対意見が出ている。ポーランドやハンガリーははっきりと協定に反対しており、両国のポピュリスト与党は反移民のレトリックで自国民を煽っている。ポーランドは反ロシアだが、民主主義の理念を尊重しているわけではないのだ。特にポーランドはすでに100万人を超えるウクライナ難民を受け入れていることから、追加的な受け入れを拒否すると語っており、一人当たり2万ユーロの支払いもボイコットするとしている。ポーランド与党の法と正義党(PiS)の党首は、たとえこの協定がEUによって合意されたとしても、これを受け入れないと宣言した。EU加盟国がEUとしての決定に従わないことは存立基盤を揺るがす大問題となる。
イタリアでポピュリスト政権が誕生したことは記憶に新しく、EUにおいて基盤となる民主主義は大きく後退してきている。幸いなことにイタリアではプーチンに不信感をいだく国民が多いが、その一方でロシアのプロパガンダは広く浸透し、ゼレンスキーへの信頼度も低くなってきている。
ポーランドの状況
ポーランドはロシアのウクライナ侵攻において、100万人を超えるウクライナ難民の受け入れ、ウクライナへの軍事支援などの輸送路として、きわめて重要な役割を果たしている。当然、ウクライナを支援するグローバルノースではポーランドを肯定的に報道しているが、同国ではポピュリスト政権が与党となっており、権威主義化が進んでいる。最新の民主主義の指標V-Demのレポートではこの10年で権威主義化が進んだ国のひとつにあげられているほどだ。
EU諸国との関係もよいとは言えない。たとえばポーランド与党は国民の反ドイツ感情を煽ることに腐心している。党首は「ドイツとロシアのヨーロッパ支配計画」を受け入れないと語り、外相は「EUにはドイツの自制心が必要だ」と発言している。与党は来年の選挙に備えて反ドイツの感情を煽るため、ドイツ首相からの電話での提案を拒否したフェイク動画を公開したほどだ。
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