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ウクライナとヨーロッパの衰退──理念と現実の間で
戦争の長期化はヨーロッパの亀裂を広げ、消耗させる...... REUTERS/Nacho Doce
<気候変動、食糧問題、エネルギー問題、そして移民問題。これらはヨーロッパを始めとする民主主義国が向き合わなければならない重要な問題だが、現在の対応は民主主義の理念を揺るがす可能性がある>
ヨーロッパを取り巻く難題
ウクライナでの戦争が続く中、民主主義陣営の結束とウクライナへの支持が繰り返し確認されている。重要なことだが、その一方で起きていることの全体像を把握することも重要だ。全体像とはたとえば次の地図のようなことである。
赤はクーデターベルトとも呼ばれる地帯で、近年クーデターが起きて権威主義化している。そこで発生した難民はチュニジア(緑色)を経由してイタリア(黄色)に渡る。日本にいると、ヨーロッパとアフリカは全く別な世界というイメージがある。しかし、地図を見ればきわめて近い。そのためイタリアを始めとするヨーロッパ各国にとってアフリカからの移民対策は重要な課題となっている。
クーデターベルトではクーデターの頻発、気候変動、食糧問題、エネルギー問題などから治安は悪化し、政情は不安定になっているため、これからも難民は増加する。
自然の問題(気候変動や疫病)、生活基盤の問題(食糧問題、エネルギー問題)、社会の問題(移民問題、不安定化)は相互に関係する世界的な課題だが、ヨーロッパは民主主義を標榜していることや地理的に近いこと、歴史的にアフリカと関係があることなどさまざまな要因から、これらの影響を受けやすい。
気候変動、食糧問題、エネルギー問題および移民問題の解決には時間がかかる。ということはその間も難民は増え続け、ヨーロッパの抱える問題は悪化する。悪いことにロシアのウクライナ侵攻で、ウクライナから食糧を輸入している各国は食糧不足や価格の高騰に見舞われ、政情不安定につながることもわかってしまった。問題の解決には時間がかかるが、ロシアは短期間で問題を悪化させることができる。さらにロシアはこの地域でのナラティブの拡散を進めており、歴史的な経緯もあってこの地域での非難の矛先はロシアよりも欧米に向きやすい。ロシアにとっては、いいことづくめだ。
民主主義国と権威主義国の間には、権威主義国の方が有利な非対称な問題が数多く存在するが、移民問題もそのひとつだ。民主主義国はその理念を守ろうとすれば負担の大きな行動(難民の受け入れ、保護)を取るしかない。理念を守らなければよって立つ基盤がなくなる。しかし、ヨーロッパではその基盤に亀裂が入りはじめている。
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