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アメリカが直面する内戦の危機と中絶問題──武装化したQAnonやプラウドボーイズ
巨大組織としての反中絶グループ
アメリカ各地に約2,500の妊娠センター(Pregnancy Centers)が存在する。Crisis Pregnancy Centers(CPC)と呼ばれる施設で、Care NetやHeartbeat Internationalなどの反中絶団体と提携しており、その目的は中絶の抑止である。名称から誤解して妊娠に関する相談に訪れる人が後を絶たない。それを狙い、中絶を断念させるよう誘導したり、相談を長引かせて法的に中絶が禁止されている期間まで時間を稼いでいる。
妊娠センターのマップを作成しているCPC Mapのサイトを見ると、アメリカ全土に広がっていることがよくわかる。
妊娠センターが州政府から莫大な資金援助を受けていることもわかっている。2010年以降、少なくとも13の州で、妊娠センターにおよそ約650億円(4億9500万ドル)が提供された。最大はテキサス州の約260億円(2億407万ドル)で飛び抜けて多い。今年度は約12州で約116億円(約8900万ドル)が妊娠センターに割り当てられていたことが明らかになった。
さらに妊娠センターでは、対面や電話、チャットで相談に訪れた毎年数百万人の女性から住所、氏名、性生活歴、妊娠歴、検査結果などを含んだ個人情報を収集している。これらの情報は今後、告訴に使われる可能性が指摘されている。実は妊娠中絶を行った人物を告訴し、勝訴した場合は約130万円の報奨金と弁護士費用を受け取れる法律がテキサス州では成立しており、他のいくつかの州でも追随する動きが見られるのだ。告訴は誰でもできる。妊婦を乗せたタクシー運転者でも、テキサスから遠く離れたニューヨークでSNSの書き込みを見た誰かでもよいのだ。もちろん、妊娠センターでもできる。
誤解を招く名称で望まない妊娠に悩んでいる人々を集めて中絶を止め、止められなかった場合は、告訴して報奨金を受けとるかもしれない。こうした施設が国内各地で州から補助金を得て堂々と運営されている状況はかなり異常だ。
さまざまな団体が抗議を行い、アメリカ中間選挙でも争点のひとつになっている。議員によって温度差はあるが、共和党は反中絶、民主党は中絶擁護が多い。多くの国民が中絶擁護を支持しており、共和党支持者であっても民主党に投票するケースは珍しくない。今回の選挙では共和党が伸びると予想する識者が多かったが、中絶への対応がマイナス要因になっている。
分断と武装化で火薬庫となったアメリカ
アメリカ社会の分断は深刻だ。貧富の差、人種差別、SNS、そして選挙のたびに各候補者が繰り広げるネット世論操作がそれを加速している。以前の記事で紹介した通りだ。
多くの国がそうであるように、アメリカにも人種問題、経済、中絶といった課題が多数ある。他の国と異なるのは潤沢な資金と武器を持った多数の過激なグループが存在する点だ。中絶問題は氷山の一角に過ぎない。過激なグループは次々と新しい問題をテーマに暴力的な活動を広げてゆく。同様の傾向は他の国にもあり、アメリカで火がつけば飛び火する可能性がある。日本でも似たような事態に陥っているので他人事ではない。
アメリカ政府は陰謀論や極右を信奉する一部の国民への影響力を失っている。政府の声はもちろん、民主主義的価値感が影響力を持たない情報空間ができている。物理的には同じ土地に暮らしながら、異なる文化圏の異なる価値感に基づく人々が独自の勢力圏を構成している。権威主義国ならばこうした勢力圏を強引に破壊できるが、民主主義を標榜する国では難しい。民主主義を標榜する国にとっては国内の分断された情報空間の扱いが大きな課題になっている。
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