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フェイクニュースから「影響工作」へ──すでに国家安全保障上の課題
影響工作の深刻度のモデル ベン・ニモのブレイクアウト・スケール
この分野の専門家であり、現在フェイスブックの影響工作分析を担当しているベン・ニモは、2020年9月にアメリカのシンクタンク、ブルッキングス研究所から、「THE BREAKOUT SCALE」というレポートを公開した。このレポートでは、現場でリアルタイムに影響工作を評価するためのモデル=ブレイクアウト・スケール(THE BREAKOUT SCALE)を提案している。
このモデルでは、下記のように影響するプラットフォームの数と、コミュニティの数の2つを軸に、6つのカテゴリーに分けている。6が最大の脅威となり、その対象範囲によらず緊急の対処が必要とされる。
カテゴリー1から3は比較的わかりやすいので説明は割愛する(レポートには詳述されている)。
カテゴリー4は、SNSでブレイクアウトしたコンテンツが新聞など既存のメディアに取りあげられることである。プロパガンダ・パイプラインあるいはフェイクニュース・パイプラインと呼ばれるものと同じだ。たとえば、イランのオペレーション「Endless Mayfly」は、偽のウェブサイトを作成して、カタールが2020年のワールドカップに向けて準備を進めているという偽の記事を掲載し、ロイターが一時的に報じた。ロシアのIRAは、そのアカウントによるツイートが大手の報道機関で紹介されたことが数多くある。2017年1月、ロサンゼルス・タイムズ紙は、スターバックスが難民に仕事を提供することを決定したことに対する反応を伝える記事の中に、IRAの2つの異なるTwitterアカウントのツイートを紹介した。
カテゴリー5は、著名人など影響力のある個人によって作られるブレイクアウト・ポイントである。その代表はドナルド・トランプで、2016年9月28日の選挙演説では、グーグルが「ヒラリー・クリントンに関する悪いニュースを抑えている」と主張し(情報源はブライトバートらしい)、ロシアのプロパガンダメディアであるスプートニクが拡散し、ブライトバートを含む親トランプ派のメディアによって増幅された。
カテゴリー6は緊急の対処が必要なカテゴリーである。たとえば、IRAの作戦は、2016年5月にテキサス州ヒューストンで相反する2つのデモを組織し、デモ参加者に武器を持参するようアドバイスしたことでカテゴリー6に達した。
日本も例外ではない
サイバー空間における影響工作は始まったばかりである。前述の大西洋評議会やNATOサイバー防衛協力センターではAIの活用など新しい技術による脅威の拡大が指摘されている。フェイスブックのレポートでは、国内に向けての影響工作も多く、単純な数では全体のほぼ半数を占める。
日本も例外ではない。フェイスブック社の基準に即すと、影響工作の一環とみなされる活動が4年前の時点で明らかになっている。堂々と国内向けの影響工作要員を募集していたのだ。今後、より広い範囲に広がってゆくことは間違いない。
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