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再送-アングル:ロシア反体制派ナワリヌイ氏の死から1年、なお続く支持者への弾圧

2025年02月20日(木)17時18分

 昨年8月、顔を隠した中年のロシア人女性がモスクワの赤の広場に入り、カラフルなゴムボールを撒き散らした。写真は、法廷に出廷するナワリヌイ氏の弁護士ら。1月17日、ロシアのペトゥシキで撮影(2025年 ロイター/Yulia Morozova)

(2段落目の名前の表記と16段落目の脱字を修正しました。)

Lucy Papachristou

[ロンドン 14日 ロイター] - 昨年8月、顔を隠した中年のロシア人女性がモスクワの赤の広場に入り、カラフルなゴムボールを撒き散らした。

ボールには鉛筆で、「政治犯を釈放せよ」「私とあなたの自由のために」「やあ、ナワリヌイだよ」と書かれていた。最後のスローガンは、1年前に北極圏の刑務所で亡くなった反体制政治家アレクセイ・ナワリヌイ氏の言葉だ。

2週間後、当局は活動家ベラ・ノビコワ氏を逮捕。ボールばらまきの動画撮影が理由だ。モスクワの裁判所は「過激主義のシンボル」を表示したとして2万ルーブル(約3万3千円)の罰金と15日の禁固刑を科した。ロイターはノビコワ氏に弁護士を通じて接触したが、彼女はコメントを控えた。

この件について、ロシア政府はコメントに応じなかった。ナワリヌイ氏が存命中、政府は彼と支持者を西側の支援を受けたトラブルメーカーと非難していた。

ゴムボールで抗議をした女性は、行動の動機は故ナワリヌイ氏の追悼と、1968年のチェコスロバキア侵攻に対する旧ソ連時代の反体制派の抗議活動を称えるためだと語った。

身の安全のために匿名を希望した女性は、「変革を支持する人を鼓舞したかった」と語る。逮捕される懸念から抗議後すぐにロシアを離れ、欧州のほかの国に逃れた。「独裁体制」のもとで暮らしたくないという。

ナワリヌイ氏が47才で急死してから1年になる。今なお、ナワリヌイ氏や同氏の追悼に関連した行動に参加したことを理由に、何十人ものロシア国民が逮捕され、裁判を経て投獄されている。

ナワリヌイ氏は過激主義その他の罪状により合計30年以上になる刑に処されていた。冒頭のノビコワ氏の例に見るように、ロシアでは「ナワリヌイ」という言葉を掲げただけでも実刑判決を受けるリスクがある。今月にはサンクトペテルブルクの裁判所が、ナワリヌイ氏の写真を公の場で掲げること自体が過激主義を支持する行為とみなす判決を下した。

ロシアの人権団体OVDインフォの広報担当者ドミトリ・アニシモフ氏によれば、昨年2月16日のナワリヌイ氏の死以来、彼を支持したことで拘束された事例は695件に上るという。

<在外反体制派の影響力は低下>

拘束の大半(442件)は、ナワリヌイ氏の死の直後の追悼イベントで発生。モスクワでの葬儀では、数千人が氏の名前を連呼し墓地まで行進、約100人が逮捕された。

OVDインフォによれば、大規模な追悼イベントが下火となった昨年3月半ば以降は、ノビコワ氏の事件も含め、拘束事例は35件。

「拘束数は減少しているが、依然として多い」とアニシモフ氏。「ナワリヌイ氏の死後、支持者への圧力は大量拘束から刑事訴追に移行している」

ナワリヌイ氏と連帯したことで21人が刑事訴追を受け、その中には「過激主義」活動の容疑で3年半から5年半の実刑判決を受けたナワリヌイ氏の弁護士3人が含まれる。

今もなお弾圧が続くのは、ウクライナでの戦争が丸3年を迎えようとしているなかで、ロシア政府があらゆる批判を封じ込めようと決意していることを裏付ける。

ロンドンのシンクタンク英王立国際問題研究所(チャタムハウス)の次席研究員ベン・ノーブル氏は、弾圧の狙いはナワリヌイ氏が「プーチンに対する脅威となる可能性」を根絶することだと話す。

ノーブル氏は一方で、ナワリヌイ氏の死から1年、他国を拠点に活動するロシアの反体制グループの分断は深刻で、彼らはロシア国民に対してなかなか影響力を行使できていないと続ける。

ロシア政府にとって、戦費負担によるインフレの方が「国外の反体制勢力よりも手強い」とノーブル氏。

とはいえ、ロシアの政治学者エカテリーナ・シュルマン氏は、ナワリヌイ氏支持者への弾圧は、政権に対する抗議を萎縮させると指摘する。

「国民に『よけいなことをするな』という明確なシグナルを送るのが狙いだ」とシュルマン氏は指摘した。

<結果を恐れず政治参加を>

弁護士だったナワリヌイ氏は、プーチン氏の与党「統一ロシア」を「ペテン師と泥棒の政党」と非難し、「将来の美しいロシア」を目指して戦っていると語っていた。

西側諸国の首脳やナワリヌイの盟友、未亡人のユリア・ナワルナヤ氏は、ロシア政府がナワリヌイ氏を殺害したと非難。しかし、ロシア側はこれを否認し、米国情報機関はプーチン氏が殺害を命じた可能性は低いと判断した。

ナワリヌイ氏が2011年にリトアニアのビリニュスで設立した「反腐敗財団」(ACF)は、ロシアのエリート層の贈収賄疑惑を調査・公表している。

しかし、一般のロシア国民にとって、こうした活動を支援するコストは高い。

ノーベル平和賞を受賞したロシアの人権団体「メモリアル」は、ACFに寄付したことで少なくとも14人が刑事訴追されたと報告。ACFは米国で非営利組織として登録されているが、ロシア政府は「外国の代理人」「過激主義」団体と指定し、寄付で有罪となれば最長8年収監される。

コンピュータープログラマーで、モスクワで人権擁護の活動をしていたコンスタンティン・コトフ氏は昨年末、何年も前にACFに6回にわたり500ルーブルずつ寄付していたことで訴追を受けた。

コトフ氏は抗議活動にも参加し、5年前には大規模抗議集会を手伝ったことで収監された。その後、ウクライナ侵攻に反対するデモに参加したことで、複数回逮捕され罰金を科された。

コトフ氏はロイターに対し、「ナワリヌイ氏は、私たちに、現実の政治に関わること、ある目的のために結果を恐れず政治に関わることを教えてくれた」と語る。

先月、公判に向けて自宅軟禁となっていたコトフ氏は、裁判所が命じた足首に装着する追跡装置の技術的欠陥に乗じて逃亡することを決意した。現在はリトアニアにいるコトフ氏は、自分は幸運だったが、ロシアに残っている人々は出国するのが難しい、と語る。

「必要な書類も持たず、国外に受け入れてくれる人もいなければ、いったいどうすればいいのか」

(翻訳:エァクレーレン)

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