焦点:トランプ氏が望む利下げ、米国以外で実現 FRBは動けず
1月31日、トランプ米大統領は世界的に金利が下がることを望んでおり、その願いは実現しつつある。写真はイングランド銀行。ロンドンで17日撮影(2025年 ロイター/Isabel Infantes)
Howard Schneider
[ワシントン 31日 ロイター] - トランプ米大統領は世界的に金利が下がることを望んでおり、その願いは実現しつつある。しかし米国国内ではそうなっていない。米経済は堅調で、さらに自らの政策の不透明感により、米連邦準備(FRB)が他の中央銀行とは異なる方向に進む状況になっているからだ。
欧州中央銀行(ECB)は30日、カナダ銀行(中銀)は29日にそれぞれ利下げを行った。イングランド銀行(英中銀)も来週追随する可能性が高い。FRBが金利を据え置く中で他の中銀が利下げすれば、ドルが上昇し、トランプ氏の通商政策の目標がさらに複雑化しかねない。
ECBは30日の理事会で、0.25%ポイントの利下げを実施した。ラガルド総裁は記者会見で、「経済成長に対するリスクは依然として下向きだ」と述べた。トランプ氏が幅広い国々に対して導入する構えを見せている関税について、「確実に世界的にマイナスの影響を及ぼす」と警告した。
ユーロ圏の金利の方向は下向きだとし、「利下げのペースや順序、規模は今後のデータに基づいて決まる」と語った。
カナダ中銀のマックレム総裁は29日、トランプ氏の関税に言及し、「長期にわたる広範な貿易紛争は、カナダの経済活動に深刻な打撃を与えるだろう」との見方を示した。カナダ中銀は同日、6会合連続で利下げし、成長見通しを引き下げた。
英中銀は2月6日の金融政策委員会で、金利を引き下げると予想されている。今後は現在予想されている以上の速いペースで利下げが進む可能性がある。
<政策の乖離>
その結果、FRBだけが当面異なる状況に置かれている。FRBの政策当局者は、インフレ率が予想通り低下すれば年内に利下げすると予想している。しかし、パウエル議長は29日の会見で、「政策と経済の状況は極めて良好だとみており、政策スタンスの調整を急ぐ必要はない」と明言した。
これはトランプ氏が1週間前に「要求する」と述べていたものとは違う結果だ。同氏は先週の世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)で、「直ちに金利の引き下げを要求する。同様に世界中で金利が引き下げられるべきだ」と語った。
トランプ氏にとって、FRB以外の主要中銀が利下げするという望みが半分だけかなった状況は、何も実現しないより悪いかもしれない。FRBと他の中銀との金融政策の違いはドル高圧力をみ、国際貿易を米国に有利な形で「再調整」するというトランプ氏の目標はさらに難しくなる。
マッコーリーのストラテジストはECB理事会前に公表したメモで、ユーロに対するドル高圧力を緩和するには、欧州の政治情勢の不透明感払拭、ウクライナ戦争の終結、米国の関税見送り、安定したユーロ圏の経済成長が必要になると記した。
<政策は手詰まり>
FRBと他の中銀の政策スタンスの違いは、新型コロナ危機がもたらした2020年の一時的なリセッション(景気後退)から抜け出す中で、米経済がたどった道筋の違いを浮き彫りにしている。
高インフレは供給網の混乱による世界的な現象で、各国中銀は一様に迅速な利上げで対応した。しかし、価格上昇の根本原因は異なっている。ユーロ圏では22年のロシアによるウクライナ侵攻などでエネルギー価格が急上昇した。一方、米国では積極的な財政支出が需要主導型の価格上昇を招いた。
インフレ率も全般的に低下したが、米国ではトレンドを上回る成長を維持しているのに対し、欧州は景気後退の瀬戸際にある。
この状況はトランプ氏にとって難しい課題となっている。つまり、現在の米経済はほぼ完全雇用にあり、生産や成長率も潜在力の限界に達するか、それを超えている可能性がある中で、バイデン政権よりも良い経済成果をどう実現するかが問われている。
インフレはほぼ抑制されているが、FRBは将来的に不確実性とリスクが存在すると考えており、少なくとも今のところは静観の姿勢を取っている。
KPMGのチーフエコノミスト、ダイアン・スウォンク氏は、パウエル氏の記者会見での発言は「様子見」「待ち」「急いでいない」「辛抱強く見守る」といったフレーズが多く使われたことを指摘。「FRBは手詰まりの状態にある」と指摘。多くの大統領令が出され関税の発表も間近に迫っている現在、「次に何が起こるかFRBは分からない状況だ」と語った。
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