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アングル:メキシコ大統領の「対トランプ」戦略が高評価 関税回避に期待

2025年01月15日(水)18時15分

 1月14日、 昨年11月終盤トランプ次期米大統領が世界の貿易環境に衝撃を巻き起こした。写真はメキシコのシェインバウム大統領。メキシコ市で8日撮影(2025年 ロイター/Henry Romero)

Laura Gottesdiener Diego Oré

[メキシコ市 14日 ロイター] - 昨年11月終盤、トランプ次期米大統領が世界の貿易環境に衝撃を巻き起こした。メキシコとカナダが米国への不法移民や麻薬の流入対策をもっと進めない限り、就任後直ちに両国製品へ25%の関税を課し、自由防衛協定を破棄すると発言したからだ。

これは当時、就任から8週間足らずだったメキシコのシェインバウム大統領にとって大きな試練になった。シェインバウム氏は、トランプ氏に対してあまりにも厳格で融通が利かない態度を見せるのではないか、というのが専門家の当初の見立てだった。

しかしトランプ氏の米大統領就任が近づいた今、シェインバウム氏は公的な場でこそトランプ氏との「口論」を続けているものの、メキシコが移民や治安、中国を巡る問題で米国との協力に真剣だという姿勢を証明できる具体的な措置を打ち出している。

これらの措置がトランプ氏の関税発動を回避する上で十分か、またそもそも「就任初日から関税」というトランプ氏の脅しが全て現実になるのかはまだ分からない。ただ複数の専門家や元外交官らは、シェインバウム氏によるトランプ氏への対応は着実な滑り出しを見せたとの見方を示した。

米シンクタンク、メキシコ研究所のグローバル研究員を務めるジェマ・クロッペ・サンタマリア氏は「シェインバウム氏と彼女のチームによる非常に現実的で先回り的なアプローチだ」と指摘する。

実際シェインバウム氏は、既に厳しくなっていた米国への不法移民流入取り締まりを一層強化し、昨年10―12月の拘束者は過去最大の47万5000人に達した。またメキシコ政府として、米国から強制送還された非メキシコ人を受け入れる可能性も排除していない。

メキシコ政府は医療用麻薬フェンタニルについて史上最大量の1100キロを押収したとも発表。一部アジア製品への新たな関税導入と、幾つかの国内都市で中国の違法コピー商品を没収したと明らかにした。

クロッペ・サンタマリア氏は「シェインバウム氏は強い政治指導者というメッセージを発信している」と語り、就任から100日間を経た最近の世論調査で支持率が80%まで高まっていると説明。「トランプ氏が絶大な権力と正当性を身にまとって登場してくるのは間違いないが、シェインバウム氏にもそれは当てはまる」と付け加えた。

ロイターが取材した経済専門家やメキシコの元外交官、メキシコ政治研究者ら7人の大半は、シェインバウム氏の「対トランプ」戦略を高く評価している。

バンコ・ブラデスコのアナリスト、ロドルフォ・ラモス氏は、メキシコが自国の利益を米国の利益と完全に合致させる決意を示していることから、シェインバウム氏とトランプ氏が力を合わせて序盤の脅威や不確実性を乗り切れるとの確信が強まっていると述べた。

<潜在的リスク>

メキシコの元駐米大使、アルトゥーロ・サルカン氏は、第2次トランプ政権においてメキシコは最大の「負け組」国家の一つと目されると話す。

貿易相手として米国の比重は他国に対して圧倒的に大きく、トランプ氏が関税を課せばメキシコ経済を激しく揺さぶりかねないからだ。サルカン氏によると、トランプ氏が約束している不法移民の大量強制送還も、メキシコの労働市場に緊張をもたらすほか、既に暴力や成長低迷などに苦闘する同国に人道や治安の面で課題を突き付ける恐れもある。

サルカン氏は、米国とメキシコの関係は過去数十年で最も不安定化し、メキシコ政府は第1次トランプ政権よりも向き合うのがさらに難しくなると覚悟する必要があると警告した。

しかしシェインバウム氏は、まさにお手本通りに備えを固めているように見えるし、今のところ政権が講じてきた措置に不足はないかもしれない。

ユーラシア・グループのアナリスト、マティアス・ゴメス氏は「これらの措置はトランプ氏との交渉の土台を築き、同氏が就任初日に関税を課すのを防ぐ上で十分だと思う」と述べた。

それでもゴメス氏は、トランプ氏による関税の脅しは今年を通じてさまざまな面でシェインバウム政権に重圧を与えるリスクとしてくすぶり続けるとみている。

ロイター
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