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アングル:アルコール発がん警告、トランプ氏とケネディ氏の沈黙の理由

2025年01月06日(月)18時12分

トランプ米次期大統領(共和党、写真左)と厚生長官に指名されたロバート・ケネディ・ジュニア氏(右)はともに酒を飲まず、アルコールの危険性について率直な意見を表明してきた。2024年10月、ジョージア州で撮影(2025年 ロイター/Carlos Barria)

James Oliphant Nathan Layne

[ワシントン 3日 ロイター] - トランプ米次期大統領(共和党)と厚生長官に指名されたロバート・ケネディ・ジュニア氏はともに酒を飲まず、アルコールの危険性について率直な意見を表明してきた。しかし、退任を控えたバイデン政権(民主党)のビベック・マーシー医務総監がアルコール飲料のラベルにがんの発症リスクを明記すべきとの見解を3日に示したことに対し、トランプ氏とケネディ氏は意見を表明していない。

共和党が伝統的に規制に対して抵抗していることや、酒類業界のロビー活動が活発なこと、共和党の支持基盤となっている保守的な州に酒類企業が多いことなどを踏まえると、アルコール飲料のラベルへの発がんリスクの明記をトランプ次期政権が近く採用する可能性は低い。

マーシー氏は飲酒が乳がんや結腸がん、肝臓がんなど数種類のがんの発症リスクを高めるとしてアルコール飲料のラベルで警告するように促した。

共和党の戦略を担当するブライアン・ダーリング氏は、昨年11月の選挙を受けて共和党が多数派を占めることになった議会上下両院がアルコール飲料に発がんリスクのラベルを貼らせる法案を承認することになるとは考えていない。ダーリング氏は「共和党が多数派の議会が乳母国家のように振る舞い、アルコール飲料にがんを引き起こす可能性があるというラベルを強制することは想像できない」とし、「共和党が立脚する自由や、全ての事柄と完全に矛盾しているようにしか思えない」と語った。

アルコール依存症で死亡した兄を持つトランプ氏は、飲酒の有害性についてしばしば口にしてきた。しかし、現在は息子たちが経営する一族のビジネスは世界中に所有するゴルフコースやホテルといったホスピタリティー産業で巨万の富を築いてきた。また、米東部バージニア州シャーロッツビルの近郊に1300エーカーのワイナリーを所有している。

トランプ氏は大統領選の運動中、経済成長を妨げる政府の規制を取り除いていくと主張していた。

ダーリング氏は「彼(トランプ氏)は反アルコールの一方で、自由を支持している」とし、「トランプ氏が有権者に選ばれた理由の1つは、連邦政府ができることと、できないことを指示することにうんざりしていたからだ」との見方を示した。

<「のどを乾かしておくように」>

ビールとワインを含めた酒類業界は強大な力を持っている。米国の政治での資金の流れを追跡している超党派団体オープンシークレッツのデータによると、2024年の選挙期間中に酒類業界は2490万ドルを献金した。

うち半分強の50.3%が共和党、48.7%が民主党にそれぞれ寄付された。23─24年に最も多く寄付を受けたのは大統領選で敗北した民主党候補のハリス副大統領で110万ドル、2位のトランプ氏は約30万6000ドルだった。

米国の代表的な蒸留酒メーカーは南部のケンタッキー州、テネシー州、テキサス州といった共和党が支配的な地位にある保守的な州に拠点を置いている。これらの州は大統領選でトランプ氏に大量に投票した。

ケンタッキー、テネシー、テキサス各州の知事の事務所に対してアルコール飲料に発がんリスクのラベルを貼らせる案へのコメントを求めたが、回答はなかった。

共和党全国委員会(RNC)にテネシー州から選出されているオスカー・ブロック氏は「たばこの箱に警告ラベルを貼るには、有害性が分かってから何年もかかった」とした上で、「禁酒法時代に戻ることにはならないのは明らかだ」と言及した。

ブロック氏は、ウィスキーメーカーのジャックダニエルといった多くの蒸留酒メーカーを擁するテネシー州では生産業者、卸売業者、流通業者、小売業者からの資金を原資とした酒類業界のロビー活動の影響力が最も大きいかもしれないと指摘した。

テキーラやウオツカの人気銘柄を生産しているテキサス州は21年、アルコール飲料の販売を拡大する法律を可決した。共和党のグレッグ・アボット知事は交流サイト(SNS)に「友人たちよ、のどを渇かしておくように」と投稿して祝福した。

マーシー氏は、発がんリスクを考慮したアルコール摂取量のガイドラインの見直しも促した。米国では年間に約10万人がアルコール関連でがんを患い、約2万人がアルコール関連がんで命を落としている。

ケネディ氏は上院で厚生長官就任が承認された場合、閣僚として食品医薬品局(FDA)を監督し、アルコールの摂取に関する勧告を含めた食事のガイドラインの更新に影響を与える立場になる。ケネディ氏は過去にアルコールと薬物の乱用に苦しんだ後、飲酒と薬物を断った。

トランプ氏はマーシー氏の後任となる医務総監にFOXニュース出演者で、ニューヨークの急患診療所チェーンで院長を務めたジャネット・ネシェイワット氏を指名した。就任には上院の承認が必要となる。

ネシェイワット氏はアルコール摂取の制限を提唱し、高齢者より飲酒量が少ない若者を称賛していた。

ロイター
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