アングル:トランプ氏の大規模減税、「債券自警団」がブレーキも
11月25日、 米共和党は来年、トランプ次期大統領(写真)の公約実現に向けてアクセルを踏み込むと約束しており、連邦議会には同氏が推進する減税や関税を阻むものはほとんどない。テキサス州ブラウンズビルで19日代表撮影(2024年 ロイター)
David Lawder David Morgan
[ワシントン 25日 ロイター] - 米共和党は来年、トランプ次期大統領の公約実現に向けてアクセルを踏み込むと約束しており、連邦議会には同氏が推進する減税や関税を阻むものはほとんどない。しかし、米国債市場は債務の大幅な増加に警告を発している。
市場はトランプ氏の減税と関税がインフレを加速させると予想している。同氏の大統領選勝利を予想する「トランプトレード」が9月下旬にウォール街を席巻し始めて以来、指標10債利回りは約75ベーシスポイント(bp)上昇し、4.4%となった。
住宅ローンや自動車ローン、クレジットカード債務の金利も上昇し、米国の経済成長を危うくする恐れがある。
下院歳入委員会に所属する共和党のデービッド・シュワイカート下院議員はインタビューで「奇妙なことに、今や債券市場がこの国を動かしつつある」と語った。
市場のシグナルは議会に「白紙小切手」が渡されないことを意味していると述べ、減税は支出削減と組み合わせる必要があるとの考えを示した。
この問題に取り組むのは、トランプ氏が財務長官に指名したヘッジファンドマネージャーのスコット・ベッセント氏だ。ベッセント氏はトランプ氏の経済政策が成長を加速させ、税収を増やし、市場の信頼を高めると主張している。
予算の数字は非常に厳しいものとなる。2017年に成立した「トランプ減税」の個人と中小企業向けの減税措置が25年に失効するため、トランプ氏は延長する意向を示している。また、社会保障、残業、チップ収入への課税を廃止し、自動車ローンの利子控除を復活させるなど、新たな税負担軽減措置も公約している。
超党派の「責任ある連邦予算委員会」は、公約が実行された場合、財政赤字は10年間で7兆7500億ドルに増加すると予想している。
<歳入拡大>
大統領選後にインタビューした共和党議員の間では、債券市場がトランプ氏の政策に及ぼすとの見方は少数だった。一部の議員は減税による経済成長の加速で減税分を賄えると主張した。これはトランプ氏も17年に減税を推進する際に使った言葉だが、議会の両院税制委員会などの推計によると、実際は減税により10年間で財政赤字が1兆ドル以上膨らむ。
責任ある連邦予算委員会の分析では、トランプ減税を延長した場合、成長率の上昇によって相殺できるのは減税によって直接失われる歳入の1─14%にとどまり、大部分は借り入れによって賄われることになる。
<マスク氏の歳出削減に期待>
下院予算委員会のジョディ・アリントン委員長は、経済成長を年間3%以上に加速させれば10年間で歳入が3兆ドル増加するが、追加的な支出削減が必要になるとの見方を示した。債券市場の利回り上昇は「財政赤字抑制を動機付ける要因だ」と指摘した。
アリントン氏や共和党のジョー・ウィルソン下院議員は、企業家のイーロン・マスク、実業家のビベック・ラマスワミ両氏が率いる「政府効率化省(DOGE)」が歳出予算削減策を見いだすことに期待している。
ウィルソン氏は「マスク氏のおかげで無駄なものを特定し、削減できるものは削減する本当のチャンスが得られたと思う」と語った。
<債券自警団>
クリントン元大統領の参謀ジェームス・カービル氏は1993年に、「生まれ変われるなら債券市場になりたい。あらゆる人を怖がらせることができるからだ」という有名な言葉を残した。
議会の動きが財政赤字の大幅な増加を示唆するものであれば、過剰な国債発行が市場の消化不良を引き起こし、利回りが急上昇すると一部の市場アナリストは懸念している。
シンクタンクの公式通貨金融機関フォーラム(OMFIF)の米国会長を務める元財務省高官のマーク・ソベル氏は「米国の経済政策への信頼が失われ、債券自警団が表れて金利に上昇圧力がかかり、米国と世界経済が大きな打撃を受けるというリスクを排除することはできない」と述べた。
マニュライフ・インベストメント・マネジメントのネーサン・トフト最高投資責任者兼シニアポートフォリオマネジャーは、議会とトランプ政権は市場の反応に基づいて方針を調整する可能性が高いと予想した。
「ドルが強くなり過ぎれば、おそらく少し後退するだろうし、株式市場が動き過ぎても少し後退するかもしれない。こうしたことを気にかけている」と語った。