ニュース速報
ワールド

焦点:衰退する米国のアフリカ外交、トランプ氏復帰で一変か

2024年11月13日(水)08時54分

 11月11日、 アフリカ大陸は米国の影響力が衰退する一方、中国やロシアとの同盟関係を強めており、ジハード(聖戦)勢力による反乱も拡大している。写真は4月、ニジェール・ニアメで米軍の撤退を求める人々(2024年 ロイター/Mahamadou Hamidou)

Jessica Donati

[ダカール 11日 ロイター] - アフリカ大陸は米国の影響力が衰退する一方、中国やロシアとの同盟関係を強めており、ジハード(聖戦)勢力による反乱も拡大している。現地の米大使館は人員不足が深刻で、トランプ米次期大統領は大陸の急速な変化を理解するのに苦心するだろう。

ロイターが米政府の現職と元高官8人に話を聞き、米政府監視機関がまとめた報告書も検証したところ、バイデン政権下で在アフリカ大使館の人員とリソースが枯渇し、米国の目標達成に支障が出ている実態が浮かび上がった。

米国は過去4年間、アフリカ外交で数々の挫折を経験した。ニジェールで主要な諜報基地を失ったのがその一例だ。同国のサヘル地域ではロシアを後ろ盾とした軍事政権が発足し、世界のテロの温床となりつつあるが、米国は同地域で足がかりを失ってしまった。

ギャラップが今年実施した世論調査では、アフリカでは中国の人気度が米国を追い抜き、米国はソフトパワー面でも後退している。

米中央情報局(CIA)の元アナリストで、民主党・共和党両政権下でアフリカ関連のさまざまな任務を担当したキャメロン・ハドソン氏は、リソース不足が誤りを招いたと指摘。昨年4月のスーダンでの戦争勃発が寝耳に水だった実態や、空軍基地を巡るニジェール軍事政権との交渉失敗を例示した。

現在は戦略国際問題研究所(CSIS)に所属するハドソン氏は、米国は各国の政治力学や軍事力学を理解する上で「大きな盲点がある」とし、「これは米国の外交が直面する大きな問題であり、特にアフリカでは深刻だ」と指摘した。

米国務省はロイターの質問に答え、アフリカ駐在のポストは学校や医療の不足に加え、多くの勤務地が僻地にあることが理由で敬遠されると説明。困難なポストへの勤務を奨励するため、金銭的および非金銭的なインセンティブを用意していると付け加えた。

アフリカにおける米国の衰退を示す兆候は他にもある。

米政府はアフリカの膨大な鉱物資源が国家安全保障にとって不可欠だと主張しているが、そうした資源へのアクセスはほとんど進展していない。米国は、アンゴラ経由で欧米諸国に資源を輸出する大型の鉄道プロジェクトを支援しているものの、完成はまだ何年も先だ。

バイデン氏はアフリカに対して幅広い約束を行ったが、任期中のアフリカ訪問を含め、未達成のものばかりだ。国連安全保障理事会・常任理事国へのアフリカ2カ国の追加や、アフリカ連合(AU)の20カ国・地域(G20)参加を支援すると誓ったが、いずれも実現していない。

2017年から21年のトランプ前政権で要職を務めた2人の元高官は、トランプ氏はバイデン氏よりも現実的なアプローチを採り、米国の支出に見合った具体的な見返りをアフリカに求めるとの見方を示した。

2人はまた、中国との競争と、米企業への新たな支援が焦点になると予想。米国は民主主義や人権を今より重視しなくなり、サヘル地域の軍事指導者に対する政治的姿勢も見直す可能性があるとした。

前トランプ政権時にアフリカ特使だったティボール・ナギー氏は「アフリカ政策には少しばかり現実主義が必要だ」と語り、「トランプ政権第2期には政策がもっと実利的になり、実際にはより多くの成功を収めることができると期待している」と続けた。

ロイターはトランプ氏陣営にアフリカに関する計画について質問したが、回答はなかった。

<明かりが消えた部署>

アフリカにおける米国外交が問題を抱えていることは、一般公開されている米政府のデータや公式報告書から明らかだが、メディアでは伝えられてこなかった。

国務省の監視機関、監察総監室(OIG)が出した多数の報告書は、大使館の人員不足により、政治的・経済的安定の推進など米国の目標達成が損なわれている実態を詳細に伝えている。

例えば6月の報告書によると、中央アフリカ共和国は米国から数百万ドルの支援を受けながら、ロシア人傭兵に警護を依頼している。現地の米大使館は人員が不足しているため大使の会議にはしばしば議事録係がおらず、またインターネット接続が弱いため書類の送信に数時間を要することがあるという。

2023年には200万ドル相当の備蓄品が紛失し、現地採用の職員による窃盗や詐欺行為が一因だったと報告書は伝えている。

米国にとって国家安全保障上の最優先事項である中国との競争が求められる地域でさえ、人材不足は深刻だ。米議会高官は昨年、世界最大のボーキサイト埋蔵量を誇るギニアにおいて政治対応部署が空席で、同国からの輸出の大半が中国に向かっているとロイターに明かした。「部署全体が空っぽで、明かりも消えていた」という。

<カット、カット、カット>

ウクライナや中東で大きな戦争が続く中、トランプ氏の外交政策においてアフリカの優先度は低いかもしれない。トランプ氏はまだアフリカ・チームを任命していない。ハリス副大統領が11月5日の米大統領選の数日前にチームを任命したのとは対照的だ。

トランプ氏は前政権時代、アフリカ諸国をトイレに例えたと報じられ、同地域の怒りを買った。

前政権下でサヘル地域などの特使だったピーター・ファム氏は、次期政権下でアフリカへの援助が大幅に削減されることはないだろうが、米国の利益に反する行動を取っているとみなされた国への援助が打ち切られる可能性は高くなると述べた。

1期目のトランプ政権は国務省と米国際開発庁(USAID)の大幅な予算削減を提案し、在任中にはポストの補充に苦労した。また国連や家族計画を支援する医療団体からの資金も引き揚げた。

国務省のマーシャ・ベルニカット外国サービス局長は9月のインタビューで、同省が15年ぶりに自然減以上の職員を採用していると説明。職員の4分の1は2020年以降に採用された人々だとし、欠員補充の取り組みを強調した。

こうした努力も虚しく、全体的に見ればアフリカの外交官数は新型コロナウイルスのパンデミック期に減少した後、バイデン政権下でほとんど変化していない。ロイターに提供された限定的な国務省のデータによると、アフリカの外交官数は2018年12月の2175人から23年には2057人に減少した。

外交関係職員で構成する米外務職員組合(AFSA)のトム・ヤズジェルディ会長はロイターに「これは単なる人員配置の問題ではなく、国家安全保障に関わる問題だ」と語った。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米国務長官指名のルビオ氏、イランやベネズエラ制裁強

ワールド

米大統領選で注目の賭けサイトCEO宅捜索、電話や電

ビジネス

世界の高級品売上高2%減予想、値上がりや景気不透明

ワールド

日米韓首脳会談、ペルー開催で最終調整=林官房長官
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:またトラ
特集:またトラ
2024年11月19日号(11/12発売)

なぜドナルド・トランプは圧勝で再選したのか。世界と経済と戦争をどう変えるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 2
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 3
    NewJeansのミン・ヒジン激怒 「似ている」グループは企画案から瓜二つだった
  • 4
    本当に「怠慢」のせい? ヤンキース・コールがベース…
  • 5
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    中国の言う「台湾は中国」は本当か......世界が中国…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    トランプ再選を祝うロシアの国営テレビがなぜ?笑い…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、1000キロ離れたロシア拠点に…
  • 1
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 2
    「歌声が聞こえない」...ライブを台無しにする絶叫ファンはK-POPの「掛け声」に学べ
  • 3
    ウクライナ軍ドローン、1000キロ離れたロシア拠点に突っ込む瞬間映像...カスピ海で初の攻撃
  • 4
    「遮熱・断熱効果が10年持続」 窓ガラス用「次世代…
  • 5
    「トイレにヘビ!」家の便器から現れた侵入者、その…
  • 6
    本当に「怠慢」のせい? ヤンキース・コールがベース…
  • 7
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 8
    後ろの女性がやたらと近い...投票の列に並ぶ男性を困…
  • 9
    海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦「空母化」、米…
  • 10
    NewJeansのミン・ヒジン激怒 「似ている」グループは企…
  • 1
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 2
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 3
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の北朝鮮兵による「ブリヤート特別大隊」を待つ激戦地
  • 4
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 5
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    予算オーバー、目的地に届かず中断...イギリス高速鉄…
  • 10
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中