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アングル:独州議会選で反体制政党が台頭、連立政権にさらなる打撃

2024年09月02日(月)14時28分

ドイツ東部テューリンゲン、ザクセン両州の州議会選挙で、反体制派の政党2党が歴史的勝利を収めた。ショルツ政権にとっては大打撃となり、ただでさえ結束が弱まっている国政連立与党の足並みは一層乱れかねない。写真はベルリンの連邦議会議事堂(2024年 ロイター/Liesa Johannssen)

Sarah Marsh

[ベルリン 1日 ロイター] - ドイツ東部テューリンゲン、ザクセン両州の州議会選挙で、反体制派の政党2党が歴史的勝利を収めた。ショルツ政権にとっては大打撃となり、ただでさえ結束が弱まっている国政連立与党の足並みは一層乱れかねない。

ドイツは1年後に国政選挙を控えており、州議会選挙の結果を踏まえ、ショルツ首相は移民政策の強硬化を迫られる見通し。やはり選挙戦の主要争点となるウクライナ支援を巡る議論も熱を帯びそうだ。

ドイツとならぶ欧州2大大国の一つであるフランスが、6、7月の選挙を経ていまだに政権樹立に苦慮していることもあり、ドイツ政権の権威失墜は欧州の政策をも複雑化させかねない。

暫定予想によると、両州の議会選挙では国政連立与党3党全てが票を失ったもようで、ショルツ首相率いる中道左派の社会民主党(SPD)の立場は揺らいだ。3党のうち、議席獲得に必要な5%を明確に上回っているのはSPDのみ。

こうした結果を踏まえてアナリストは、思想的に異質な政党が集まるショルツ連立政権内で、政党同士のさや当てがさらに激化しそうだとみている。

SPDのケビン・キューナート党首は1日遅くに「われわれとしては、自己主張を一層強めることになる。州議会から追い出されたばかりの両政党に主導権を握らせるわけにはいかない」と語った。

今回の結果は、欧州各国がウクライナ戦争やインフレへの対応に苦慮する中、欧州全土で反体制政党が台頭し、政治勢力が多くの断片に分割されつつある現状を反映している。

移民・難民排斥を掲げる右派「ドイツのための選択肢(AfD)」はテューリンゲン州で33.2%を、ザクセン州では保守政党とほぼ同数の票を獲得したとみられる。

一方、左派ポピュリスト(大衆迎合主義)政党「ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟(BSW)」は、結党からわずか8カ月で11.5─15.6%の率を獲得し、国政連立与党3党のどれよりも得票率が高かった。

こうした反北大西洋条約機構(NATO)、反移民、親ロシア政党の強さを踏まえると、州、連邦レベルの双方において、思想的に近い政党による連立樹立は一層難しくなりそうだ。

<弱まるウクライナ支援>

連立政権内では州議会選の前から対立がみられ、昨年末には今年と来年の予算を巡って緊張が高まった。

連立を組む緑の党のオミット・ノウリポアー党首は先月、政権内における「極めて多くのくだらない論争」や、特にFDPとの根本的な思想の違いに不平を漏らし、連立政権を「暫定政権」呼ばわりした。

同じく連立与党の自由民主党(FDP)のウォルフガング・クビキ副党首は1日、連立政権は「正統性を失い」、FDPに害を及ぼしていることが州議会選挙によって示された、との認識を示した。

BSWとAfDの両方によって支持者を侵食された政権与党は、移民への強硬姿勢を強め、ウクライナ支援を弱める可能性がある。

SPDは2021年以降、支持率がすでに3割強下がって16%程度にとどまっているだけに、BSWが創設され、州議会選で有権者の「信任」を得たことは特に打撃となりそうだ。左派寄りの有権者は今後ますますBSWに流れかねない。

<難しさ増す連立>

AfDは州議会で台頭したものの過半数には届かず単独政権を樹立できないため、次点の複数の保守政党が手を組むことになる。しかしテューリンゲン州では、思想的に大きな違いがあるBSWの支持なしには過半数議席を確保できない見通しだ。

このことは、各州の代表機関である連邦参議院(上院)にも余波を広げ、国の政策決定に影響を及ぼすだろうと専門家は言う。

一方、連邦レベルで主流政党がBSWやAfDと連立を組むことは、両政党の外交政策観を考えればあり得ない。つまり両党の勢力が強まれば強まるほど、主流政党は思想的に一貫性のある多数派の形成に苦慮するとみられている。

しかし、主流政党が不安定な連立を組めば、有権者はその後の選挙で「懲罰」として反体制政党にますます投票しかねないと専門家は言う。

ルール大学ボーフムの政治学者オリバー・レンブケ氏は「政権が政策を実行せず、真の変化、改革をもたらすことができなければ、有権者は政治プロセスがエリートに乗っ取られたと主張するかもしれない。そうなれば悪循環だ」と警鐘を鳴らした。

ロイター
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