アングル:中国、ビザなし渡航で観光客増加 コロナ前復帰には数々の壁
中国は現在、景気と個人消費の回復を目指して外国人観光客の誘致に力を入れており、多くの旅行者が中国に押し寄せている。写真は北京で2017年1月撮影(2024年 ロイター/Jason Lee)
Sophie Yu Casey Hall
[北京 17日 ロイター] - イタリア人のギレルメ・カルバーリョさんは今月、初めて中国に旅行した。新型コロナウイルスのパンデミック後、ビザ(査証)なし渡航が可能になったのが一番の理由だ。
以前は全ての外国人観光客にビザ申請が義務付けられていたが、現在は十数カ国からの旅行者は、ビザなしで入国して最長15日間滞在することができる。
上海を訪れたカルバーリョさんは「こんなに安全だとは思わなかった」と語る。「みんなとても親切だ」
中国は現在、景気と個人消費の回復を目指して外国人観光客の誘致に力を入れており、多くの旅行者が中国に押し寄せている。
中国最大のオンライン旅行会社トリップ・ドット・コムのデータによると、6月24日現在、フランス、ドイツ、イタリア、マレーシア、タイなどビザが免除された複数の国々からの旅行予約は前年比で150%も急増。7月と8月の予約も増える見通しだ。
中国は昨年12月から、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、オーストラリア、ニュージーランド、ポーランドを含む複数国についてビザなし渡航を可能にした。
<本格回復の壁>
中国は2020年から23年初めまで、パンデミックを封じ込めるために国境を閉鎖していた。
最近ではビザ免除の効果で観光客が急増しているが、パンデミック以前に比べれば依然としてはるかに少ない。
公式データによると、2019年に中国を訪れた外国人は計4910万人で、3分の1以上が観光やレジャー目的だった。同年の外国人観光客による収入は1313億ドルに達した。
これに対し、今年上半期の外国からの訪問者数は1460万人にとどまっている。外国人観光客による収入のデータは20年以降、発表されていない。
旅行代理店は、来年には世界的な旅行需要と旅客便の運航スケジュールがパンデミック前の水準まで回復し、観光客がさらに増えると期待を寄せている。
ただ専門家は、中国が外国人観光客を増やすにはビザ免除以外にも対策が必要だと指摘する。
地政学的な緊張、反対意見を許さない政府、そして一部の西側メディアにおける中国の好戦的な描写が、一部の観光客を遠ざけている。先月、外国人を狙った刃物による襲撃事件が2件発生したことも、治安上の懸念を呼び起こした。
中国はまた、円安のおかげで観光ブームに沸いている日本と注目度を競わなければならない。
外国人にとってもうひとつのハードルは、中国に行き渡るデジタルインフラだ。交通機関のチケットからレストランの予約、観光地の入場券に至るまで、全ての支払いは「微信(ウィーチャット)」や「アリペイ(支付宝)」など中国の決済アプリにひも付けされたQRコードを通じて行われるため、外国の銀行カードを持っている人々にとっては日々の手続きが難しい。
中国は、外国の銀行カードと微信および支付宝とのリンクを許可してはいるが、依然としてシステムと言語の壁が立ちはだかる。
スコットランドに住み、今月アイルランド人の夫と中国の故郷を訪れる予定の学者、リャン・ホンリンさんは「中国の決済ツールを持たず、言葉も話せない外国人が、どうやってこの全てに対処できるのか想像もつかない」と語った。