アングル:韓国で「シャーマン」人気、SNS使い現代の悩みに答える若手も
6月8日、ソウルで活動する巫堂のイ・キョンヒュンさんの祈祷所には、仏像や土着の神々の像とともにロウソクや線香が並べられていた。写真は5月、ソウル市内にある自分の祈祷所でスマートフォンを確認するイさん(2024年 ロイター/Kim Soo-hyeon)
Hyunsu Yim
[ソウル 8日 ロイター] - ソウルで活動する巫堂(ムーダン=朝鮮のシャーマン)のイ・キョンヒュンさん(29)の祈祷所には、仏像や土着の神々の像とともにロウソクや線香が並べられていた。その様子は、何世紀も前から受け継がれてきた巫堂の祈祷所と何ら変わらないように見える。
だが、「エギ・ソンニョ」(ベビー・エンジェル)という愛称で知られるイさんが相談者と接触する方法は完全に現代的だ。数十万人のフォロワーを抱えるソーシャルメディアのアカウントを利用するのだ。
イさんは、「巫俗(ムーソク=朝鮮のシャーマニズム)は、目に見えない神秘的で精神世界に属するものと信じられてきた」と語る。だが2019年、ユーチューブ上に自身のチャンネルを開設して以降、このスピリチュアルな仕事についての動画を投稿する巫堂が他にも増えてきているという。
韓国は世界で最も現代的でハイテク化の進んだ国の1つだ。世論調査によると、韓国の総人口5100万人のうち半分以上は無宗教だという。だが、巫俗の魅力は時代を越えて受け継がれてきた。
西江大学韓国宗教アカデミックセンター(ソウル)のキム・ドンギュ氏によると、以前は巫堂が宣伝手段として使っていたのは新聞だった。それがソーシャルメディアへと移っていくのは「当然の現象」だという。
グーグルトレンドによると、韓国ではユーチューブでの「巫堂」と「占い」の検索回数が過去5年間でほぼ2倍に増えたという。
今年韓国で大ヒットした映画「破墓」のメインテーマはスピリチュアルな伝統で、ある家族にかけられた呪いを解く仕事を引き受ける巫堂が登場する。
映画では、20-30代のおしゃれな服装をした巫堂を描いている。チャン・ジェヒョン監督は、製作に向けた調査の中で多くの若い巫堂に出会ったと話す。
『破墓』は世界中で少なくとも1320億ウォン(約150億円)の興行収入を記録し、宗教的伝統に対する関心が高まった。韓国映画振興委員会によると、韓国人の約5人に1人がこの作品を観たという。
約20年にわたり巫堂として働いてきたウンミ・パンさんは、「かつては巫堂として生活していることを隠したものだった。かなりさげすまれる仕事だったから」と語る。今日の巫堂は、かつてより積極的に自己アピールと宣伝に励んでいるという。
巫堂には予言能力があると信じられている。パンさんの話とロイターが閲覧したネット上の料金表によれば、30分から1時間の相談料は通常10万ウォン(約1万1400円)前後だ。冒頭のイさんによれば、巫堂は人間関係のアドバイス、就職活動への助言、将来についての予言を提供するという。
巫堂は通常、鈴を打ち鳴らしたり、米粒を撒くといった儀式を執り行った後、相談者の質問に答えを出す。
また巫堂は、神の憑依を求めて歌い踊り、ナイフの刃の上を歩くこともある。その慣例は多彩だが、巫堂の多くは、山の神や地母神、竜王といった土着の神を信仰している。
仏教徒のパク・チェビンさん(33)はなかなか仕事が見つからずに苦労していた2020年にイさんを訪ねた。相談したことで「心の平安」を得られたという。
パクさんは、「当時は不安でいっぱいだったが、成り行きに任せて、やらなければならないことに集中しようと決めて、少し気が楽になった」と語る。ほぼ同じ時期に仕事も見つかった。
「私は仏教徒だが、知り合いのキリスト教徒でも巫堂に悩みごとを相談している人がいる」
<経済的な不安>
イさんの場合、10代の頃から身体的な苦痛を感じ、幻覚などの症状が現われたという。こうした症状は、新たに巫堂になりつつある人を神が取り込もうとしている兆しだと考える人もいる。
イさんは2018年、巫堂としての使命を受け入れようと決意し、まもなくユーチューブ上にチャンネルを開設。チャンネル登録者は今や30万人以上に達する。投稿するのは、バッグに入れて持ち歩いているアイテムの紹介や、2024年の韓国の(あまり楽観的ではない)展望を占うといった内容の動画だ。
「韓国社会の現状は、無視できない」とイさん。自身の属するミレニアル世代とZ世代の顧客の多くは、住宅の入手難や子育ての費用といった不安を抱えてやってくるという。
イさんが活動するソウルの場合、政府の報告書によれば、2017年には所得中央値の8.8倍だった住宅価格は、2022年には15倍へと上昇した。韓国は高インフレと高金利という悩みも抱えている。
教育省の外郭機関である韓国学中央研究院のハン・ソンフン助教は、ソウルで暮らす若手の巫堂たちは、自分では解決できない経済的な困難に直面している若い世代の顧客とうまく結びついていると語る。
<蔑視との戦い>
文化省管轄下の政府機関による2022年の推定では、韓国には30─40万人の巫堂及び占い師がいる。
この政府機関は、「(巫俗は)韓国の国民性にとって重要で強力な要素」だとホームページで説明している。
ハン助教によれば、朝鮮半島におけるシャーマニズムの起源は少なくとも2000年前に遡る。
20世紀前半に朝鮮半島を植民地化した日本と1970年代の軍事独裁政権は、巫俗を近代化の障害とみなして迫害した。
人口の約4分の1を占め、政治的に有力なキリスト教徒も、巫堂とその信者を批判してきた。
キリスト教や仏教といった主流宗教の方が社会的な影響力は大きいが、巫俗と同じような批判を浴びることはないとハン助教は言う。仏教徒は、人口の40%程度とされる。
イさんは、韓国ではキリスト教徒も巫堂のもとを訪れる、と言う。「教会に通うような真面目なクリスチャンでも、悪夢を見たら夢判断を聞きに来る」
最近では、巫堂をめぐる法的トラブルも生じている。地元メディアの報道では、ソウル在住の巫堂(66)が顧客から20万ドル(3140万円)以上を詐取したとして有罪となり、2月に禁固4年の判決を受けた。裁判所は、被告の巫堂が顧客の亡母と言葉を交わすような演技をしていたと判断した。
イさんは、巫堂が顧客に代わって物事を決めるすのは間違っていると考えている。巫堂は意思決定者ではなく、むしろ助言を行う友人や家族のように、案内役として奉仕するものだとイさんは言う。
韓国のエリート層の中にも、巫堂と接点を持つ人がいる。
Kポップ大手レーベルとビジネス上の紛争に巻き込まれているエンターテイメント企業トップ幹部のミン・ヒジン氏は、ビジネス目的で巫堂に相談したという疑惑に関して、4月の記者会見で釈明した。
ミン氏は、話して気が楽になればと思って巫堂に相談したと説明し、「皆さんだって全員やっているんじゃないですか」と、問いかけた。
国際精神医学情報誌に掲載された2022年の研究では、韓国人の中でメンタルヘルスの治療を必要とする人数と実際に治療を受けている人数には「非常に大きな」ギャップがあり、治療を受けることへの偏見が一因になっていると指摘した。
宗教学を専門とする前出のキム教授は、「巫堂はカウンセラーの役割を果たしてきた」と語る。
ハン氏は、「巫俗は、何か後ろ暗い、疑わしく怖いものだというレッテルを貼られてきた」と語り、誰かの評判を傷つける目的で巫堂に依頼したとして糾弾された例もあると説明した。
(翻訳:エァクレーレン)
*写真キャプションを修正して再送します。