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アングル:「すべてを失った」避難民850万人、スーダン内戦1年で続く苦境

2024年04月16日(火)16時00分

4月14日、モハメド・イスマイルさんは、戦火を逃れてスーダンからエジプトにやってきた。写真は6日、スーダン中央部オムドゥルマンで、慈善団体からの食糧配給を待つ避難民の家族ら(2024年 ロイター/El Tayeb Siddig)

Yazan Kalach Khalid Abdelaziz El Tayeb Siddig

[カイロ/ポートスーダン 14日 ロイター] - モハメド・イスマイルさん(42)は、戦火を逃れてスーダンからエジプトにやってきた。ギザの製紙工場で働いて得る収入は月わずか100ドル程度。望みは、5人の子どもに何とか食べさせていくことだけだという。

7才になる息子は父親に抱かれないと眠れない。1月、スーダンの首都ハルツーム郊外から避難する前に耳にしていた爆発音がトラウマになっているからだ。

スーダン国軍と民兵組織「即応支援部隊(RSF)」の間で戦闘が始まってから1年、850万人以上が住む家を追われ、世界最大級の難民危機が生じている。人々はそれぞれに経済的な不安や安全上の問題を抱えて近隣諸国に何とか逃れようとしており、何度も移動せざるをえない家族もいる。

経済的な困難のために、一部の難民は戦争で疲弊した首都に戻った。

「どこかで安全を確保することが最優先だ」とイスマイルさんは言う。「経済的にとても無理だから、子どもの教育のことすら考えられない。親としては本当に辛いが、どこからも助けはこない」

スーダン内戦は2023年4月15日、民政移管構想をめぐって勃発した。ブルハン評議会議長率いる正規軍と、「ヘメティ」と呼ばれるモハメド・ハムダン・ダガロ司令官率いるRSFが、それぞれの権益を守ろうとして衝突した。

戦闘は首都を荒廃させ、ダルフール地方では民族的な動機による暴力の嵐が吹き荒れ、さらに多くの人々の避難先として難民支援の拠点となっていた重要な農業地域であるジャジーラ州など他の地域にも波及した。

12月にはRSFがジャジーラ州の中心都市であるワドメダニに入り、ハルツームと同様に略奪を行い近隣地帯を占拠したことで、多くの人々が再度の避難を余儀なくされた。

<「すべてを失った」>

アフメドさん(50)は、内戦が始まると妻と4人の子どもを連れてハルツームを逃れた。ワドメダニから避難しようとしたとき、車を強奪しようとしたRSFの兵士に車外に引きずり出されたという。

一家は東部ガダーレフを目指したが、困難な移動の末に3日かかってたどり着くと、そこで75才の義母が亡くなってしまった。その後、ガダーレフで密航斡旋業者に金を払ってエジプトに入った。昨年、大量のスーダン難民が押し寄せたことを受けて、エジプトは女性と子ども、50才以上の男性についてビザなしの入国を停止していた。

アフメドさんはカイロからの電話で、「ブルハンとヘメティのせいで私たちの生活はめちゃくちゃだ。持っていたものをすべて失った」と語った。エジプト当局とのトラブルを避けるために、姓を伏せることを条件に取材に応じた。

スーダンでは、過去の紛争によりすでに300万人以上が住む家を失っていた。そこに、ダルフール地方を中心とする今回の内戦が起きた。ダルフールでは、この12カ月間の武力衝突の中で、RSFとその支援勢力が蛮行を働いていると非難されているが、RSF側では敵対する国軍側の行為だとしている。

アフリカで3番目に広い国土面積を持つスーダンでは、比較的影響が少ないない地域もあるが、状況が悪化し、500万人近くが飢餓にさらされる中で、難民化した人々の多くは慈善組織の支援にすがっている。

スーダンの医療体制は崩壊しており、麻疹(はしか)やコレラといった疾病の感染が拡大する可能性もある。支援機関によると、軍が人道支援のためのアクセスを制限しており、何とか届けた支援物資も、RSF支配地域では略奪のリスクにさらされている。

<「非常に大きな苦しみ」>

国軍・RSF双方とも人道支援に対する妨害を否認している。だが現地では、最小限の配給食糧の提供と一部の基本的なサービスの運営維持は、ボランティア運営による「緊急支援室」に任せきりとなっている。2019年に元指導者バシル氏による独裁体制を倒した抗議行動に由来する民主派ネットワークとつながる取り組みだ。

農家のイスマイル・カリフさん(37)は、北ダルフール州の州都エルファシル近郊にある難民キャンプで暮らしている。カリフさんの話では、キャンプで暮らす人々は戦闘に巻き込まれるリスクにさらされ、移動を試みれば双方から報復の対象となってしまう一方で、医療や安定した食糧供給、電話ネットワークを利用できずにいるという。

国土の反対側にあるポートスーダンでは、数万人が国軍支配下での保護を求めているが、この先どうなるかは分からないという。

「いつかこんな生活をすることになるとは想像できなかった」と語るのは、ハルツーム出身で3人の子どもを育てるマシェル・アリさん(45)。紅海に面したポートスーダンの難民センターに身を寄せている。「これは現実なのだろうか」とアリさんは言う。「非常に困難な状況だ」

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のグランディ難民高等弁務官はあるインタビューで、「(スーダン内戦により)世界でも最悪の難民・人道危機の1つが生じている。その深刻さや影響の大きさ、人々の苦悩が際立っているにもかかわらず、最も放置され、無視されている危機の1つだ」と語った。

グランディ氏は、支援が提供されなければ、欧州をめざすスーダン難民が増える可能性があると警告する。

アラブ首長国連邦やイランといった大国の介入により、紛争が長期化し、スーダン周辺の地域が不安定化する恐れもある。

国境を越えてエジプトやチャド、南スーダンへと逃れた人々は数十万人。数はもっと少ないが、エチオピアや中央アフリカに逃れた人もいる。

最近では戦火のために南スーダン産の石油輸出がストップした。スーダン経由のパイプラインで輸送され、南スーダンにとっては重要な収入源となっている。

これが物価上昇につながっている、と語るのは、スーダン国内では「イマド・バボ」という芸名で知られたギター奏者のイマド・モヒールディンさん。他の人々と同様に、南スーダンの首都ジュバで何とか生活を維持しようと奮闘する。

モヒールディンさんはロイターの電話取材に対し、「私の仕事、私の人生は音楽だ。(だが)戦時下では音楽のための場所はない」と語った。「今は未知の状況の中で希望を探している」

(翻訳:エァクレーレン)

ロイター
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