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焦点:イスラエル経済への打撃深刻、予備役招集や消費低迷で

2023年10月25日(水)18時42分

10月24日、イスラエル経済がイスラム組織ハマスとの紛争で被る打撃は、過去数十年に経験したことのないものになりそうだ。写真は11日、観光客の姿が消えたエルサレムの旧市街で撮影(2023年 ロイター/Sinan Abu Mayzer)

Steven Scheer Ari Rabinovitch

[エルサレム 24日 ロイター] - 労働力は枯渇、ロケット弾の飛来を告げるサイレンは絶え間なく鳴り響き、奇襲攻撃で受けたショックは簡単には消えない──。イスラエル経済がイスラム組織ハマスとの紛争で被る打撃は、過去数十年に経験したことのないものになりそうだ。

高層ビルが増え続ける主要都市テルアビブでは、市が建設現場を閉鎖したため建設用クレーンが数日間動きを止めていた。今週に入ると厳格化された安全指針の下で作業が再開されたが、業界の報告書は建設部門の停滞だけで1日当たり1億5000万シェケル(3700万ドル)の経済損失が発生していると推計している。

イスラエル建設業協会のラウル・サルゴ会長は「打撃を受けているのは建設業者や実業家だけではない。イスラエルの全世帯が受けている」と話す。

約5000億ドル規模のイスラエル経済はハイテク業と観光業に強みを持ち、中東地域で最も発展している。今年は大半の期間にわたり堅調を維持。通年の成長率は3%に達する勢いで、失業率も低かった。

しかし、ガザへの地上侵攻が間近に迫り、戦闘が地域紛争へと拡大する恐れがあるため、国民は身を潜め、食料品以外の支出を大幅に減らしている。格付け会社は既にイスラエルを格下げする可能性を警告している。

何十万人もの陸軍予備役が召集されて人繰りに穴が開き、港湾からスーパーマーケットにいたるサプライチェーン(供給網)が混乱。小売業者は従業員を一時解雇し、通貨シェケルは下落している。

また紛争の影響でガザ地区からイスラエルへのパレスチナ人労働者数千人の移動が止まり、ヨルダン川西岸地区からの流れも細っている。

エルサレムの主要なショッピングモールのエスカレーターや通路は紛争勃発から2週間閑散としていた。利用者は徐々に戻っているが、 「客足は激減している」と、スポーツウエアを扱う店舗の店長は言う。

<主力のハイテク業に打撃>

ホテルは国境地帯から避難してきたイスラエル人で半分ほどが埋まっているが、残りはほとんど空室だ。工場は、ガザ近郊の拠点でさえ操業を続けてはいるが、定期配送を担うトラック運転手の数は必ずしも十分ではない。

先週のクレジットカードによる買い物は前年同期比で12%減少。スーパーマーケットでの買い物が急増した以外、ほぼすべてのカテゴリーで激減した。

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大期に隆盛を極めたハイテク産業は苦戦を強いられている。イスラエルは国内総生産(GDP)の18%、輸出の半分をハイテク業が占める。

「生産性が著しく低下している。生きるか死ぬかが問題になっているときに日々の仕事には集中できない」と、フィンテック企業シータレイのバラク・クライン最高財務責任者(CFO)は語る。同社は国内の従業員80人のうち12人が予備役に招集された。

イノベーション庁のドロール・ビン最高責任者によると、ハイテク業界では労働力の推計10─15%が予備役として招集された。同庁が多数のハイテク企業、特に初期段階のベンチャー企業と接触したところ、その多くが資金調達ラウンドの最中で、資金不足に陥っている。こうした企業を支援するためにイノベーション庁は1億シェケル(2500万ドル)の基金を設立し、ハイテク新興企業100社が苦境を乗り切るのを支えている。

<情緒的危機>

イスラエル政府は紛争のための資金と被害を受けた家計や企業への補償に「無制限の」支出を約束しており、これは財政赤字と債務の拡大を意味する。

今後のイスラエル経済を占う上で過去の紛争は参考にはならないかもしれない。2006年にイランを後ろ盾としたレバノンの武装組織ヒズボラと34日間にわたり戦った際には輸出が減少し製造業が減速、GDPが0.5%も落ち込んだが、その後すぐに経済が回復した。

しかし、今回は過去の例とは異なると当局者は指摘する。

国民の間に「情緒的な危機」があり、それがすでに打撃を及ぼしていると指摘するのは、大手ハポアリム銀行のチーフ経済アドバイザー、レオ・レイダーマン氏。「人々は先行きの不透明さと不安な気持ちから消費支出を最小限に抑える」と見ている。個人消費は経済活動の半分以上を占めるだけに、経済への影響は重大かもしれない。

「イスラエルは最近の全ての戦闘で驚くほどの回復を示してきた。今回はもっと劇的な事態のようだ」と財務省高官は不安をにじませた。

イスラエル中銀は23日、今年の経済成長率予測を3%から2.3%に下方修正し、来年についても3.0%から2.8%に引き下げた。これは戦闘がガザ地区に限定されるとの前提に基づいた予想だ。

ロイター
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