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焦点:米農村部のワクチン接種、ドライアイスの確保が難題に

2020年12月13日(日)08時14分

12月9日、米国の農村部などの公衆衛生当局者が、数千マイルにも広がる地域に点在して居住する人々への新型コロナウイルスワクチン接種準備に頭を痛めている。写真は4日、ウィスコンシン州ベロイトのドライアイス生産工場で撮影(2020年 ロイター/Nicholas Pfosi)

[ニューヨーク/ロサンゼルス 9日 ロイター] - 米国の農村部などの公衆衛生当局者が、数千マイルにも広がる地域に点在して居住する人々への新型コロナウイルスワクチン接種準備に頭を痛めている。そうした州民に対し、接種にアクセスしてもらうだけでも米史上で最も難しい作業になる可能性があるだけではない。北極よりも低い温度で保管しなければならない米ファイザーのワクチンがだめにならないように、十分なドライアイスを確保するという、もう1つの難題に直面しているからだ。

ファイザーがドイツのビオンテックと共同開発したワクチンは、早ければ今週にも米国で緊急使用の承認が出る可能性がある。マイナス70度で輸送・保管しなければならず、特殊な超低温冷凍容器、もしくはドライアイスを必要とする。

ワシントン州、ニューメキシコ州、ミシシッピ州、ルイジアナ州、インディアナ州など十数州はロイターに対し、急いでドライアイスを確保しようとしていると答えた。ファイザー側から届くスーツケースの大きさの出荷容器に充填(じゅうてん)するためだ。

ファイザーによると、この容器が接種拠点で臨時保管庫として使われる場合、容器をひとたび開けた後は、5日間ごとにドライアイスを補充すれば全体で30日間、ワクチンを維持できる。同社は、全米50州において必要な分を満たせるだけの十分なドライアイスは供給され、深刻なドライアイス不足にはならないとの見方を示す。

しかし、予防接種アクション連合(IAC)の幹部で、ファイザーのコロナワクチン計画に対するアドバイザーであるケリー・ムーア医師によれば、これはかつてない難度の接種計画で「農村部や遠隔地の共同体では、特に複雑な取り組みになる」という。

米国でのコロナ流行は、初期のころは北東部などの人口密集地域に集中していた。しかし、今は全米に流行が広がり、人手や財源などが限られる小さな町や農村部がとりわけひどく打撃を被っている。農村部の人口は約6000万人と全米の5分の1に満たない。

間もなくモデルナのワクチンも承認される可能性がある。こちらは普通の冷凍装置で保管できる。テキサス州やアーカンソー州などの当局者は、州内の農村部ではモデルナのワクチンを主に念頭に置いている。

しかし、多くの州や病院の幹部はファイザーのワクチン供給を受ける計画で、これに関わる輸送や配置などの面で懸念を表明している。

ファイザーの場合、ワクチンを送る最小数量は1000回分弱で、ピザが入る箱ほどの大きさの容器にドライアイスをいっぱいに詰めると、これで5日間持たせることができる。

しかし、国内数千の病院や医療機関の購買を調整するプレミア社の幹部、ソーミ・サハ氏は、ワクチンを農村部に届けるためには、この5日間分で配布や接種に間に合うか疑問を呈する。「(人手が回らなかったり、接種希望者が十分に集まらなかったりすれば)ワクチンは無駄になると言われているようだ。こうした過疎地では、この問題のために人々がワクチンにアクセスさえできないということなのか」と問い掛ける。

インディアナ州のシンシナティとインディアナポリスの間に位置するベイツビルの医療施設、マーガレット・メアリー・ヘルスは、医療や介護の従事者に接種の準備をするに当たり、ワクチンを無駄にしたり品質が劣化したりしないよう計画を進めている。そうした対象者は1400平方マイル(3626平方キロ)の広大な地域に散らばっている。予定している接種拠点は2カ所で、1カ所は消防署の敷地を使ってドライブスルー式にする。

そこでは、万が一に備えてドライアイスを大量に確保し、冷凍容器業者とも十分に契約した。接種予約の受付作業にも入ろうとしており、予約を入れても来場しなかった人の分のワクチンが無駄になるのを避けるため、その場合に対象になる人のリストも用意する。

同施設のティム・パットナム最高経営責任者(CEO)は「ワクチンを容器から取り出したら、必ず誰かの腕に接種することになる」と話した。

<ドライアイス供給に不安>

ファイザーと配送会社のUPSの間では、ドライアイスはオプションで詰め替え用に23キロが用意されるが、ワクチンの受け手側は自分で用意することになる。

多くの州は、既にドライアイスの配送日程を調整している。オハイオ州のゲム・アンド・サンズ社はオハイオ州との間で、1週間当たり1万5000ポンド(6804キロ)分のドライアイス片を、配送料込みで、1ポンド当たり0.55ドルで供給する契約だ。

ドライアイスは二酸化炭素(Co2)で作る。圧縮ガス協会(CGA)によると、コロナワクチンでCo2需要は5%増える見込みだが、供給は現在の生産能力で対応できるとみている。

しかし、一部のドライアイス供給業者は、どれだけ多くのドライアイスが必要になる分からない部分が多いため、ワクチン接種計画は難しい作業になると指摘する。テネシー州のネクスエアの担当副社長、スティーブ・アトキンス氏は「国内には供給態勢が脆弱だったり、不十分だったりするところも出てくるだろう」と述べた。

ドライアイスのCo2を作るエタノール工場の多くは、コロナ流行の早い時期に操業が停止。再生可能エネルギー協会によると、今は改善しているが、それでもCo2の生産量は前年を約25%下回る状態が続いている。

インディアナ州のあるドライアイス会社は、もっぱら地元の病院からの電話をさばいている。同社幹部は、ドライアイスの製造業者や配送業者は「ごく少ないからね」と話した。

(Stephanie Kelly記者 Lisa Baertlein記者 Carl O'Donnell記者)

ロイター
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