ニュース速報

ワールド

アングル:米で再びコロナ検査不足、「高度な自動化」が裏目に

2020年08月02日(日)08時04分

 7月27日、米国の新型コロナウイルスの検査能力は、世界的にみてどこにも劣らぬ能力を持っているはずだった。しかし、各地の研究所では処理が滞り、多くの患者が判定が出るまでに1週間、あるいはそれ以上待たされる事態が再び生じている。写真は検体輸送を準備するメソジスト・ダラス医療センター。6月24日、テキサス州ダラスで撮影(2020年 ロイター/Cooper Neill)

Allison Martell and Ned Parker

[27日 ロイター] - 米国の新型コロナウイルスの検査能力は、世界的にみてどこにも劣らぬ能力を持っているはずだった。しかし、各地の研究所では処理が滞り、多くの患者が判定が出るまでに1週間、あるいはそれ以上待たされる事態が再び生じている。

この危機の根底には、公的、民間を問わず研究所が自動検査機に依存しており、その専用試薬キットやツールを使わざるを得ないという事情がある。そうしたキットやツールを製造しているのは、ごく少数のメーカーに限られている。

ロイターは16の病院や大学の付属研究機関に取材、州や市の調達計画を分析。全国的に感染率が上昇する一方、試薬キットなどの供給体制にボトルネックがあるため、多くの研究所で検査体制がフル稼働に遠く及ばない状態にあることが明らかになった。

この市場を支配しているのは、セファイド、ホロジック、ロシュ、アボット・ラボラトリーズといったひと握りの企業だ。こうした企業の自動検査機は、各社専用の試薬キットや検体プレート、ピペットなどの使い捨てプラスチックパーツがなければ役に立たない。プリンターの専用インクカートリッジのようなものだ。

ワシントン大学の医学研究所の責任者であるジェフリー・ベアド氏は、「メーカー各社は今まさに、2つ返事では注文に応じられない極めて難しい状況に置かれている」と話す。

「COVIDトラッキング・プロジェクト」によれば、米国内の研究所では1日約80万件の検査が行われている。だが各種試算によると、現在必要とされる検査件数は1日600万─1000万件だ。

連邦議会は検査拡充を支援するため110億ドル(約1兆2000億円)の予算を配分した。また5月には、各州が連邦政府に対し、購入予定の機器などを記載した計画を提出した。

だがロイターの分析によれば、各州の計画を総合すると、公衆衛生当局者たちは根底にあるサプライチェーンの問題には対処していないことが分かる。

多くの州では自動検査機の追加購入を計画しているが、そのメーカーはわずか2社である。しかも、試薬やパーツの不足により、他州ではすでに同機種が十分に稼働していない、あるいは休止状態にある。

中国やカナダなど他国では、サプライ品の不足による制約はこれほどひどくない。これらの国では自動検査機の利用が少なく、サプライ品の調達という点で柔軟性が得られているためだ。

<単純明快な解決策は見当たらず>

新型コロナのパンデミック(世界的な大流行)初期、検査のやり方はどこの国でも似たようなものだった。研究所の職員が機器を使って遺伝子材料を抽出し、別の機器に移してウイルスを確認する。だが、こうした検査は手間がかかり、技術的な熟練を必要とした。

現在、米国の研究所の多くは、高度に自動化された「検体抽出から結果まで」式の分析機器に頼っている。だが一部の専門家によれば、標準化された試薬やパーツがないため、こうしたやり方が不適切であることが分かったという。

クリーブランド・クリニックが運営する複数の研究所の運営を支援するゲイリー・プロコップ氏によれば、政府が国防生産法(DPA)を発動し、疾病予防管理センター(CDC)が出している既存のマニュアルを利用すれば、従来の検査を拡充することもできたはずだと話す。

プロコップ氏は、CDCのマニュアルに準じた検査について、「しっかり標準化された試薬を使っている」と指摘する。「やろうと思えば、企業に頼らずに済む。その種の検査キットなら実際に大量生産できる。だが、誰もそれをやろうとしない」

米保健福祉省がロイターに述べたところでは、連邦政府はDPAを発動して一部の検査用サプライ品を調達したが、CDC推奨の検査に使われる試薬はすでに出回っており、調達を増やす意味はないという。

保健福祉省のミア・ヘック報道官は「サプライチェーンの改善、障壁の解消に向けて企業各社と直接協力し、DPAを通じて投資を行った結果、この秋には、各自動検査のプラットフォームの供給は拡大すると予想される」との見解を示した。

世界で1600万人以上が感染、64万人以上が死亡するという100年に1度のレベルのパンデミックにおいて、検査に関して単純明快な答えはない、と医療専門家は指摘する。

中国では、試薬などを節約するために複数の患者の検体を混合することで、6月には数百万人の北京市民の検査を実現し、感染拡大の再発を抑え込んだ。だが複数の専門家は、この方法では偽陰性が増加する恐れがあり、また感染が拡大している状況では非効率であると警告する。

カナダは従来型の複数ステップ検査で用いられる試薬について国内のサプライチェーンを構築し、ほとんどの患者について2─3日で検査結果が出るようになった。だがこの体制は、米国に比べて人口がかなり少ない国でこそ有効になる。

ワシントン大学医学臨床ウイルス学研究所のアレックス・グレニンガー副所長は、「1日1000件以上の検体を処理するよう求められる場合、あるいは現在の我々のように1日4000件を超える場合には、検査の一部は、『検体投入から結果まで』式の自動検査機に頼らざるを得ない」と話す。

<「パンサー」争奪戦>

ホロジック、セファイド、ロシュ、アボットの各社は、4月末まで自社製の自動検査機用の検査キットを販売していた。研究所のスタッフは、場合によっては数百件もの検体をこの機器に投入し、あとは放置しておけばいい。

米国におけるコロナとの戦いで、これらの企業は欠かせない存在になった。分子病理学会(AMP)が5月に行った調査によれば、研究所の47%は、検査システムの主力として、4社のプラットフォームのうち1つを挙げていた。

連邦政府に提出された計画によれば、各州が検査能力の拡充を急ぐなかで最も人気が高いのはホロジック製「パンサー」で、24時間で最大1000件の検査を処理する能力を持つ。

ホロジックのスティーブン・マクミラン最高経営責任者(CEO)は6月に開かれた投資家会議の席上、「需要は驚くほどだ。我々が担っている役割を非常に誇りに思う」と語った。

マクミランCEOは、「ここ数週間から数カ月、米国のほぼすべての州知事が、『パンサー』をもっと必要としている理由を訴えるために直接連絡してきた」と言う。

「パンサー」はHIVなど他の感染症の検査にも使うことができ、29の州・都市が少なくとも合計51台の「パンサー」購入を予定していた。ワシントン、ノースカロライナ両州の当局者はロイターに対し、まだ納品を待っている状態だという。

だがホロジックでは、全米で約1100台を数える既存の「パンサー」をフル稼働させるために必要な検査キットを十分に製造していない。この台数の「パンサー」がフル稼働すれば、月間約3300万件の検査を行えるが、ホロジックが製造する検査キットは約480万個にすぎない。

ホロジックによれば、製造部門は24時間体制で動いており、生産量を増やすために雇用を拡大し、新たな設備への投資も行っていると言う。また同社は、すでに検査には「多大な貢献」をしており、各研究所がより短い待ち時間で多くの検査結果を出すことを可能にしている、と述べている。

各州の検査拡充計画においてホロジック「パンサー」に続くのは、セファイドの「ジーンエキスパート」で、45台が購入予定とされている。セファイドは世界各国に約2万5000台を販売しているが、製造している検査キットは月間約200万個だ。世界全体では1日1台当たり2─3件の検査しか行えない。

セファイドのデビッド・パーシング最高医療責任者によれば、同社は病院のように迅速な結果を必要とする顧客に注力しているという。同社は数百万本のカートリッジを新たに製造しているが、2021年半ばまでは供給量を大幅に増やせる見込みはないという。

<「あるものを使うだけ」>

今月、アーカンソー州議会の指導者らはマイク・ペンス副大統領に書簡を送り、同州の病院では処理能力の10%の検査しか実施できていないと警告した。同州で感染症対策を指揮するナビーン・パティル氏によれば、ロシュ、アボット、セファイド、ホロジックからの主要サプライ品が不足しているという。

ロシュはロイターの取材に対し、同社の自動検査機は、誤判定の抑制、検査要員の削減、より迅速な結果判定を可能にしているという。またロシュでは、製造能力の拡大を進めており、検査キットや機器をどこに送るか「強く意識している」と述べている。

アボットも、製造能力の拡大を進めており、必要とされている場所で検査を行えるよう供給を厳密に管理していると話している。

一部の研究所では、複数のベンダーから自動検査機を購入し、いずれかのベンダーのサプライ品が入手可能であれば検査できるようにして、サプライ品の不足に対処している。だがこれは同時に、最大処理能力以下でしか稼働していないことを意味している。AMPの調査では、研究所の57%が少なくとも3社の機器を使って検査を行っていることが分かった。

ワシントン大学のベアド氏は、「ビュッフェに行って、ありとあらゆる料理の中から1つ選んで取ってくるようなものだ」と話す。同氏が指揮する研究所は、ワシントン州での検査の大半を担っている。

だが今月、30以上の州で感染者が急増するなか、一部の研究所では試薬や使い捨てパーツの入手が困難になり、処理が追いつかなくなっている。

今後数カ月のあいだに、これらの自動検査機とは別に、抗体検査や遺伝子配列解読機器によって検査能力が向上する可能性はある。国立衛生研究所(NIH)は、12月までに少なくとも1日600万件の検査能力を確保するよう企業各社と協力を進めている。

一部の研究所では、複数ステップ検査キットのサプライヤーにも目を向けている。

ニュージャージー州のRUCDRインフィニット・バイオロジックスは、複数ステップ検査により1日5万件の検体を処理できる。アリゾナ州のソノラ・クエストは先日、類似の機器を用いて1日最大6万件の検査を行う計画を発表した。

エボラ出血熱の研究で最もよく知られるカナダの研究者ゲーリー・コビンガー氏は、あらゆる診断はオープンなプラットフォームで行われるべきだと主張している。

「いずれ新たな病原体が発見され、その病原体に対応するカートリッジを企業は十分に供給できなくなる」

「今がまさにそのときではないか」

(翻訳:エァクレーレン)

ロイター
Copyright (C) 2020 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB幹部、EUの経済結束呼びかけ 「対トランプ」

ビジネス

ECBの12月利下げ幅巡る議論待つべき=独連銀総裁

ワールド

新型ミサイルのウクライナ攻撃、西側への警告とロシア

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    巨大隕石の衝突が「生命を進化」させた? 地球史初期…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中