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焦点:自衛隊に迫る「静かな有事」、少子化で採用難

2018年09月19日(水)23時03分

 9月19日、若年人口の減少と国内景気の拡大を受け日本企業は深刻な人手不足に直面しているが、国の安全保障の中心的存在である自衛隊員の募集活動は、さらに困難で「静かなる危機」とも言われる。都内で9月撮影(ロイター/Kim Kyung-Hoon)

[東京 19日 ロイター] - 若年人口の減少と国内景気の拡大を受け日本企業は深刻な人手不足に直面しているが、国の安全保障の中心的存在である自衛隊員の募集活動は、さらに困難となっている。

自衛官の採用数は2017年度に4年連続で計画を下回り、防衛省は今年10月から、募集対象者の年齢上限を26歳から32歳に引き上げる。

女性の活用も推進し若い男性自衛官の不足を補おうとしているが、このまま採用難が続けば、今後の自衛隊の海外活動や海上の安全保障を守る活動にも制約要因となり得る。「静かなる有事」とも言われる現状について、元防衛副大臣や防衛省幹部、元自衛官などへのインタビューからリポートする。

8月の暑い日曜日。東京・立川市の祭り会場で、屋台から少し離れた場所に自衛隊立川出張所のブースがあった。

自衛隊の活動を紹介しつつ、募集活動も行っている。制服姿の自衛官が数人、机に待機しているが、話を聞きに来る人はほとんどいない。

野澤博司所長によると、前日は約20人がブースに立ち寄ったが、真剣に入隊を考えていた人は「なかなかいない」。所長は「今は、非常に厳しい状況。今後とも募集者獲得のために頑張りたい」と話した。

ブースの横には子ども用の迷彩服が展示され、着用して記念撮影をすることができる。祭りのついでに展示物をみていたという、子どもを連れた近所に住む若い夫婦は、災害救助活動など自衛隊の活動には感謝しているという。子どもが将来自衛隊に入りたいと言ったらどうするかとの質問には「反対はしないが、危険な仕事なので心配」と答えた。

元防衛副大臣の長島昭久衆院議員は、自衛隊の人材不足に危機感を示す。同氏はロイターに「本当に深刻だと思う。20年後、人からロボットに相当置き換えていかない限り、募集の強化で今の戦力機能を保っていくことは難しい」と語った。「日本を取り巻く情勢を考えると、だんだん平和になっていくわけではないから、非常に深刻だ」。

自民党国防部会長で元防衛副大臣の若宮健嗣衆院議員は、業務や機械の省人化、無人化、ドローン、人口知能(AI)などの活用に向けた努力が必要だと説く。

ただ、年末に発表される防衛大綱の見直しに向けて自民党がまとめた提言の中にも、人材確保の決め手となる策は見当たらない。

自衛隊の採用対象人口(18歳から26歳)は、ピークだった1994年の1743万人から、2018年には1105万人まで減少。今から10年後には1002万人まで減る見込みで、その後も同様のペースで減少していくことになる。

自衛官候補生試験の応募者数も、2013年の3万3534人から2017年には2万7510人に減少した。

<自衛隊業務の制約要因>

このトレンドが続くと、自衛隊の現場の活動にとって制約となる可能性がある。元防衛審議官で政策研究大学院大学シニア・フェローの徳地秀士氏は「地域の安全保障上の課題に対応するため、日本は中国の海洋進出や朝鮮半島など、近隣の問題に焦点を当てる必要がある」とした上で、人員不足がこうした業務に影響すると指摘。「悩みの種だ。より少ない人数で、今まで以上の業務をこなす必要がある。簡単な解決策はない」と言う。

長島衆院議員も「もうPKO(国連平和維持活動)などは出せないと思う。そういう選択になる。日本周辺の安全、安定を守っていくために、そこに資源を集中させるしかない」と語った。

自衛隊の定員24万7154人(2017年3月31日現在)に対し現員は22万4422人で、充足率は90.8%。内訳では幹部自衛官の方が充足率が高く、「士」と呼ばれる一番下の階級では73.7%にとどまっている。

軍事組織とジェンダーに関する著書のある佐藤文香・一橋大学大学院教授は、自衛隊の募集対象年齢引き上げは「危機感の表れと受け止めて間違いない」とした上で、階級の低い、若い自衛官の充足率が低いことが問題だと指摘する。

自衛隊は一定期間で若い隊員が入れ替わるよう任期制を導入したものの、数年で終わる制度では若い人にとっては魅力がなく、採用がうまくいかなかったと佐藤氏は指摘する。

そこで今回、対象年齢を引き上げて「たくさんの人に来てもらおうという戦略」を打ち出したと分析する。

これに対し、防衛省人事教育局の廣瀬律子人事計画・補任課長は「若ければ若いほど強いという考えをとった時もあったが、海外でのオペレーションもあり、最先端の装備も入ってきているので、どちらかというと、経験、技能の方がより、今の自衛隊には必要なのではないか」という考えから、「間口を広げよう」としたものだと説明している。

<女性の活用>

もう一つの隊員増強策が、女性隊員の活用だ。防衛省は昨年4月に「女性自衛官活躍推進イニシアティブ」を発表。女性に対する配置制限を撤廃し「あらゆる分野で活躍する機会が開かれる」こととした。

2017年度に6.5%だった女性自衛官の比率を、2030年までに9%以上とする目標も公表した。これらを受け、8月には航空自衛隊で初の女性戦闘機操縦士が誕生した。

また、陸上自衛隊幕僚監部によると、女性自衛官の増員に向けた居住施設などの整備を進めるとともに、家庭と仕事の両立ができるよう、育児休暇後に復職しやすい制度や、緊急呼び出しの際の託児所の設置にも取り組んでいるとしている。

ただ、目標とされる9%はまだまだ低いとの見方もある。米国の女性兵士の割合は15%程度。一橋大学の佐藤教授は、配置制限が撤廃されたといっても「いわゆる『女性らしい』配置につける傾向は変わっていない」と分析する。

<ネットやアニメで募集活動>

自衛隊の募集業務に関わる人員は地方協力本部を中心に約5000人程度で、この10年間ほとんど変わっていない。

募集活動は、地元のイベントに参加して広報活動を行うほか、大学や高校を訪問し説明会を行う。若者にアピールするため、アニメやアイドルを使いソフトなイメージを打ち出すポスター等も多く使用されている。

陸上幕僚監部・募集広報担当の林田賢明3等陸佐によると、2017年度からは、テレビコマーシャルから、完全にインターネットを通じた広報にシフトした。同氏によると、これにより「自衛官募集ホームページのアクセスは格段に伸びている。(17年度は)16年度比で3倍くらい。今年度もまた伸びている」という。

ただ、アクセス数の増加が応募者の増加に直接結びつくわけではない。就職が売り手市場と言われる中、古い体質の組織できつい仕事のイメージがある自衛隊を希望する若者は少ない。

橋本大季氏(24)は、陸上自衛隊の人材養成のための高等工科学校を卒業し防衛大学校に進んで2016年に卒業したが、自衛隊には入隊せず、卒業と同時にファイナンシャルプランナーになろうと起業した。

北海道出身の橋本氏が工科学校に入学したのは家が裕福でなかったためで、「国を守るという意識はなかった」という。防衛大学在学中に、尊敬する先輩が自殺したことがきっかけで自分の人生について考え始め、「おカネの勉強をしっかりしようと思った」と話す。

がっしりとした体格だが、笑顔が優しい印象の橋本氏は言う。「自衛隊に入ってくる人たちは、貧しい、家の事情で入ってくる人が多いというのが事実」。

一橋大学の佐藤教授は、日本にはずっとポバティードラフト(貧困徴兵)というものがあったと指摘する。そして「おカネをもらって教育を受けながら安定した職に就くことに魅力を感じるような層が、これからもっともっと顕在化してくる」と予想する。

*写真を更新しました。

(宮崎亜巳、Linda Sieg 編集:田巻一彦、田中志保)

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