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アングル:毒舌ジョンソン氏に英外交トップは務まるか
7月13日、長年にわたり多くの失言やスキャンダルで知られる、英国で最も派手な政治家であるボリス・ジョンソン氏(写真)が、テリーザ・メイ新首相のもとで外相に任命されたことは驚きを呼んだ。ロンドンで6月撮影(2016年 ロイター/Neil Hall)
Estelle Shirbon
[ロンドン 13日 ロイター] - 長年にわたり多くの失言やスキャンダルで知られる、英国で最も派手な政治家であるボリス・ジョンソン氏が13日、テリーザ・メイ新首相のもとで外相に任命されたことは驚きを呼んだ。世界の外交に混乱をもたらしかねない人事である。
元ロンドン市長のジョンソン氏は閣僚経験がなく、およそ外交には不向きな言動で有名である。欧州連合(EU)離脱の是非を問う6月23日の国民投票に至る離脱キャンペーンの最重要人物でもあった。
国民投票に向けた運動のなかでEUが掲げる目標をアドルフ・ヒトラーやナポレオンの野心に例えたような人物を外相に任命することは、欧州各国政府に驚きを与える可能性が高い。
ジョンソン氏は、EU離脱キャンペーンのなかで人種差別発言をしたとも批判されている。ある新聞記事で、オバマ米大統領を「ケニアの血が入っている」と表現し、「大英帝国に対する先祖伝来の嫌悪感」ゆえに反英的である、と評したためだ。
今回の外相任命を受け、米国務省はすぐにジョンソン氏との協力関係に期待していると発表した。だがジョンソン氏は、ワシントンでは居心地の悪い思いをする可能性もある。上述のオバマ大統領に対するコメントもあるが、2007年の記事ではヒラリー・クリントン氏のことを「精神病院のサディスティックな看護師」に例え、最近では「ドナルド・トランプに会う現実的なリスクがあるから」ニューヨークに行くのは怖い、と冗談を飛ばしている。
話題に事欠かないキャリアを重ねてきたジョンソン氏ではあるが、国政上最も重要な4つのポストの1つへの登用は新展開だ。ジョンソン氏は決まって「ボリス」と呼び捨てにされ、道化師めいた性格とボサボサの銀髪で英国内外に知られている。
ジョンソン氏は、当初ブリュッセルにおいてEUに批判的なジャーナリストとして勇名を馳せた後、保守党から政界入りする一方で、テレビのお笑い番組にレギュラー出演することで知名度を高めた。
<くじかれた夢>
ジョンソン氏は、保守党が下野している時期に、不倫に関する虚偽の発言を理由に党の政策チームから外されるなどスキャンダルを重ねてきたが、機転と奇抜なスタイルで人を魅了する力を武器に切り抜けてきた。
こうした不倫スキャンダルなどもあって、ジョンソン氏は大衆タブロイド紙から「Bonking Boris(ゴシップ王ボリス)」という異名を取っている。ところが、他の政治家なら失脚しかねないところ、ジョンソン氏はますます人気を高め、ふだんなら革新系が強いロンドン市長選で、2008年・2012年と連続勝利を収めるに至る。
英国のEU残留に向けて運動していたキャメロン首相に逆らって「ブレグジット(英国のEU離脱)」推進の先頭に立つというジョンソン氏の決断は、一般には、国民投票で離脱派が勝利を収めた場合にキャメロン氏に代わって首相の座を狙おうという思い切ったギャンブルであると思われていた。
離脱派勝利が実現した後、ジョンソン氏は保守党党首・首相の最有力候補と見られていたが、勝利に酔う暇もなく、彼の野心は一転して窮地に追い込まれる。盟友であったマイケル・ゴーブ氏が突然ジョンソン氏を見捨て、自ら党首選に立候補することを発表したのだ。
「ボリスでは、今後の任務に向けてリーダーシップを発揮することもチームを構築することもできない」という捨てぜりふを残したゴーブ氏の裏切りによって、首相官邸をめざすジョンソン氏の進軍は、出発さえしないうちに足止めを食らってしまった。
ジョンソン氏にとって展望は暗かった。英国をEU離脱に踏み切らせるうえで大きな役割を果たしたのに、実際に離脱プロセスのかじを取るという困難な任務から逃げたとして、広く嘲笑を浴びていたからだ。ソーシャルメディアでは、「審判の時至る、奴は逃げ出す」というジョークが広まった。
外相への任命は予想外だった。メイ新首相は前職の内務相時代、イングランドにおける高圧放水車の使用を認めず、ドイツから中古の高圧放水銃3基を購入していた当時のロンドン市長だったジョンソン氏に恥をかかせた。
6月30日の党首選への出馬表明のなかでも、メイ氏は欧州各国首脳と渡り合った経験をひけらかしてジョンソン氏を揶揄(やゆ)した。「前回彼がドイツ人と交渉したときは、新品同様の高圧放水銃を3基もらって帰ってきた」と笑いものにしたのである。
もっとも、メイ新首相は新設されるEU離脱担当相としてデービッド・デービス議員を任命しているため、EU離脱の条件をめぐる突っ込んだ交渉におけるジョンソン氏の役割は限定的なものになる可能性が高い。
<かつてのジョークが仇に>
とはいえ、シリア内戦からウクライナ問題に至るまで、世界で最も複雑で手をつけにくい外交危機のいくつかは、ジョンソン氏が対応しなければならないだろう。
野党・自由民主党のティム・ファロン党首は、「この信じられないほど重要な時期に、新首相がジョークを言うしか取り柄のない人物を登用するとは尋常ではない」と語る。
最近はこれまでよりも真剣な印象を与えようと努力しているジョンソン氏だが、外相という新たな地位に就いた後も、昔の、といってもまだ忘れられていない自身の冗談に悩まされても不思議はない。
例えばトルコは北大西洋条約機構(NATO)加盟国の1つであり、中東情勢においても、欧州の境界における難民危機においても重要な役割を担っているが、ジョンソン氏がこの国で自身の魅力を発揮することは困難かもしれない。というのも、英誌「スペクテイター」が5月に企画した「エルドアン大統領風刺詩コンテスト」で、ジョンソン氏が優勝しているからだ。
「スペクテイター」誌がこのコンテストを開催したのは、トルコのエルドアン大統領が、自身への批判を封じるために冒涜(ぼうとく)禁止法を乱用している状況に抗議する狙いがある。優勝したジョンソン氏の作品は、「アンカラから来た若い奴 実は根っからの遊び人 悪魔の助けで好き放題 礼も言わずに知らんぷり」なるものだった。
(翻訳:エァクレーレン)